第2章 マネージャーとして
自分がバレーを辞めたと言ったことに寂しそうにする彼にあずさは胸が痛くなった。
バレーを辞めると言ったとき親しい者は皆悲痛な顔を浮かべた。
友人に悲しい顔をさせたくない。でも、どうすれば良いのか分からなかった。
再び口を開こうとしたとき、日向がトイレから出てきて金田一の視線は彼にうつる。
その隙にあずさは女子トイレに逃げ込んだ。
逃げ込んだ先は最悪だった。
ああ、今日はついてないと眉を顰めた。
「あれ?あずさじゃん。こんなとこで何してんの?」
意地の悪い笑みを浮かべてあずさを見る、かつてのチームメイトがいた。
あずさは床に足が貼り付いたように動けなくなった。息の仕方も忘れるほど心が張り詰めた。
「それ・・・烏野高校って、今日は男子の試合でしょ?・・・また男子の方に混じってるんだあ。」
「そんなんじゃ、ないよ」
あずさを痛ぶるのが楽しいと言いたげな彼女に何とか声を絞り出す。
「まだ自分は天才だと思ってるの?」
蔑んだ彼女の目にゾクリとした。
思ってない。そんなこと思ったことない。とあずさは反論する。
「あんたはずっと偉そうに・・・ほんとムカつく」
彼女の言葉はグサリとあずさに突き刺さる。
この状況があの頃に逆戻りさせるような感覚に陥った。
バタンっと個室が開き、清水が出てきた。
2人はびくりと彼女を視線で追うが、清水は何も言わず手を洗うと「あずさちゃん行くよ。準備しなきゃ」とあずさの手をとった。
床に縫い付けられた足は強制的に前へ踏み出し、清水と共にトイレを出た。
トイレの前にはもう、日向も金田一もいなかった。
「あのッ」
何か言わなければと口を開いたが先に清水が口を開いた。
「言いたくなければ、言わなくていい。だからわたしも無理には聞かない。話したくなったら話してね」と清水はあずさの手を握ったままふわりと笑った。
「ありかどう、ございます」
清水の優しさに涙腺が緩んだあずさはポロポロと涙を溢した。
体育館に戻る前に泣き止まなくてはいけない。このまま戻れば選手たちに心配をかけて試合どころではなくなってしまう。