第2章 マネージャーとして
彼女が月島のことを”蛍”と呼ぶようになって数日が経ち、あっという間に火曜日の放課後になった。
あずさは数日前から様子のおかしい日向が気掛かりだった。練習中もボーッとしていて何度も顔面でボールを受けたり、月島が揶揄ってもスルーする日向に練習試合の日が近付く度、大丈夫なのかと不安になった。
月島にどうかしたのか聞いても、知らないと興味なさげに言われてしまい、様子を見守るほかなかった。
青葉城西高校に行くため、バレー部員はバスに乗り込んだ
。
あずさは清水の隣に座る。
日向のことは気掛かりだが、憧れの人に会える喜びであずさは終始ワクワクしていた。
しかし
「お前なにその顔!?」
田中の叫び声に全員が後部座席に座る田中と日向を見やった。
「あっちょ・・・窓・・・窓開けても良」日向の声にまずいと思ったあずさは後部座席へ走ったが「おえーっぷ!!!」
間に合わなかった。
「うああああ!!止めて!!バス止めてえええ!!」
田中の叫びがバスに木霊する。
全員が思った。
あれ、なんか、予想以上に、ヤバい・・・!?
「田中さん、帰ったら洗濯するので着替えて下さい。日向は水」
日向が田中の股間に吐いたものを片付けようとあずさは田中に袋を、日向には水を差し出した。
青城に入ってからも日向の緊張が解けることはなかった。田中のプレッシャーに腹を壊した日向は再びトイレへ走り、あずさは何とか試合までに日向を通常に戻さなければと後を追った。
男子トイレの前で日向を待っていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
あずさを見て、男が「あ」と声を発した。
「久しぶり、金田一」
あずさは久しぶりの友人に笑みを溢した。
「お前、烏野に行ったんじゃねーの?こんな所で何してんだよ」
彼は不思議そうにあずさを見た。
「まさか、お前また男子に混じってバレーしてんの?」
呆れたような物言いにあずさは「違うよ」と苦笑した。
「・・・バレー、辞めたんだ。今は男子バレー部でマネージャーしてる」
つくり笑顔を浮かべて言うと、意味が分からないと言いたげに「は?」とだけ返ってきた。
「お前・・・バレーが全てだって言ってなかったか?もし、あの時のこと気にしてんなら・・・お前は悪くないだろ」
あの日を思い出しながら彼は俯いた。