第1章 出会い
宮城県立烏野高等学校の入学式の日、まだ幼さの残る顔立ちの少女は入学して割り振られた教室へと向かうために廊下を歩いていた。
少女が教室へ入ると、すでにグループは出来上がっていて各々が友人を作るために躍起になっていた。
黒板に貼り出された座席表を確認した彼女は自席の位置に思わず笑みが溢れた。
真ん中の列の間を通り、教室の1番後ろの席に座る。
平均身長よりも10cm以上背の高い彼女は後ろの席の子たちによく黒板が見えないと不満を漏らされていた。1番後ろの席は誰にも文句を言われない彼女のベストポジションだった。
彼女が席に座ると目の前には自分よりもずっと背の高い男の子の背中が広がっていた。
なるほど、黒板が見えない景色とはこういうことかと新鮮な気持ちになる。
「前から順番に自己紹介しようか」
担任教師の指示で一番端から自己紹介が始まった。
クラスメイトたちは趣味や入る部活など誰かの興味を引く一言を添えている。
クラスメイトたちの自己紹介を聞いて自分も何か言わなければいけないと考えを巡らせる。自分の番が近づいてくる度に彼女は軽くパニックになった。
そして、前の席の子が立ち上がる。
あ、やっぱり大きいと彼女は思った。
すらりと自分よりも背の高い黒縁眼鏡の男の子。
ちらりと見えた彼の横顔が彼女は綺麗だと思った。
「雨丸中学出身、月島蛍です。よろしくお願いします」
簡潔に自己紹介を終えた彼はすぐに着席する。
「はい、次の子!自己紹介して」
担任教師に呼びかけられるまで月島蛍の横顔に思考が奪われていた彼女はガタッと音を立てて慌てて立ち上がった。
「・・・北川第一中学出身の辻あずさです!あの・・・よろしく、お願い、します」
結局適当な言葉が思い付かず、最後の方は尻すぼみになってしまった。
恥ずかしくなったあずさは気配を消すようにサッと着席した。
「よし、新しい仲間と親睦を深めろ!自由に過ごして良いぞ!」
と言う教師にクラスメイトたちは様子を窺いながらひとり、またひとりと立ち上がって話しかけにいく。
月島の所にはこれまた背の高い男子、山口が「ツッキー!誰か話しかけに行く?」と駆け寄ってきた。
そして、あずさのところにも女子が来てくれた。
面白みのない自己紹介だったので、友達が出来ないかもしれないと不安になったが杞憂だったようだ。
