第2章 マネージャーとして
特に会話もなくあずさの家につくと月島は「また明日」と行って来た道を引き返して行った。
翌日、あずさは体育館に行くと「澤村さん、よろしくお願いします!」と入部届を差し出した。
「よし、これで正式に入部だな。これからよろしく!」
澤村はにこやかに笑って入部届を受け取った。
正式なマネージャーとして、初日からあずさは清水とドリンク作りや選手ごとのデータ記録、時間管理、洗濯などで忙しなく動いていた。
「マネージャーって結構ハードなんですね」
今まではやってもらっていた側のあずさは業務の多さに早くも目を回していた。
「でも、慣れれば楽しいよ」と清水はふわりと笑
う。
「さあ、残りの洗濯物も干しちゃおう」
清水は洗濯カゴを持ち上げて、あずさもそれに続いた。
清水が次の洗濯をして来るとその場を離れると、洗濯物を干していたあずさは気配を感じて振り返った。
「なんだ、月島くんか。練習は?」
「いま休憩中」
そう言うと月島はジッとあずさを見つめた。
あずさも見つめ返すが、視線に耐えきれなくなって目を逸らす。
「月島くん、そんなに見つめないでよ。穴があきそう」
「僕の名前知ってる?」
そう言われてあずさは月島に視線を戻すが、彼は未だにあずさを見つめていた。
真剣な彼の眼差しにあずさはドキリとした。
「うん、知ってるよ。蛍でしょ」
頬を赤く染めながら言うあずさに月島はくすりと笑った。
微笑む彼にあずさは目が離せなかった。
「そうだよ」
月島はそっと赤く染まったあずさの頬に手を伸ばす。
突然のことにあずさは声が出ず、更に頬を上気させた。
「もういっかい呼んでみてよ」
嬉しげに微笑む彼はあずさの頬を撫でていた。
どうして彼は自分に触れるのだろうと思いながらも、嬉しそうな彼の顔にあずさも嬉しくなった。もっと自分に笑いかけてほしいと。
「蛍」
恥ずかしげにあずさは目を伏せて彼の名を口にした。
チラリと月島の顔を窺うと、満足そうに微笑んでいるのを見てあずさは笑みを溢した。
もうそろそろ休憩が終わると言って、月島は清水が戻って来る前に体育館へ戻っていった。
戻ってきた清水は顔を赤く染めるあずさに不思議そうにしていた。