第1章 出会い
最終限目の授業中、毎度板書を書き写すために体を傾ける行為が煩わしくなる。
「月島くん前が見えないから屈んで」
とコソコソと話しかけてみる。
しばらく待っても反応はなかった。
何となく目の前に広がる背中にスッとシャーペンを撫で下ろす。
するとブルっと身震いをする月島にあずさは面白くなって、もう一度スッと撫で下ろした。
また身震いをした月島は振り返ってあずさを睨み付けた。
「だって前が見えないんだもん」
「傾ければ見えるデショ」
とまた前を向いてしまった。
再度シャーペンを月島の背中に触れさせた瞬間、前屈みになって避けられた。
そして振り返った月島にあずさはシャーペンを奪われてしまった。
「あっ、返して」
と咄嗟に出た声は大きかったらしい。
「こら!そこ、何してる!」
と教師は2人を咎めた。
「すみません」と謝る月島に続いてあずさも謝った。
授業が終わると月島は振り返ってコトリとあずさの机にシャーペンを置いた。
フッと見上げると月島はあずさを冷めた目で見ていた。
「君のせいで怒られたんだけど」
「月島くんが意地悪するからだよ」
と言い返すと月島は眉間に皺を寄せた。
「ツッキー、まだやってるの?」
と山口が呆れたようにやってくる。
「うるさい、山口」
と八つ当たりする月島にこれ以上山口に被害が及ばないように謝罪する。
「ごめんね、月島くん」
さきにイタズラをしたのはわたしの方だと。
「別にいいけど、もうやめてよね」
と釘を刺されてしまった。
「面白かったのに」
と言うとまた睨み付けられて、あずさの目の前にスッと月島によってつくられた指の輪が差し出された。
それが何を意味するのか認識する前に、バチンッとあずさの額は強く弾かれた。
「いったいッ」
あまりの痛みにあずさは額を押さえて悶えた。
「ちょっとツッキー!」
と慌てた山口の声を聞きながら月島を見上げると、勝ち誇ったように笑ってこちらを見ていた。
悔しいと思いながらもこれ以上仕返しをされたら堪らないと 敗北宣言をせざるを得なかった。
「・・・ごめんなさい」
その言葉を聞くと満足したようで月島は立ち上がって「じゃあね」と山口を連れ立って教室を出て行った。