第1章 出会い
「ただいまー」
と家の中に入るとパタパタと母親が玄関まで顔を見せた。
「おかえり!最近、遅いね」
あずさに笑顔を向ける。
「うん。友達のバレーの練習に付き合ってるんだ」
「バレーの?そっか、良かったね!」
と嬉しそうに笑う母の顔を見て何だか泣きそうになった。
あんなに夢中になっていたバレーを辞めると言ってから両親には心配をかけていた自覚はあった。
日向って言う子がね、飛雄がねと最近あったことを母に話すと母は嬉しそうに聞いてくれた。
木曜日の午前5時30分
キュッキュッと体育館の床に擦れるシューズの音、そしてボールが弾む音が響き渡る。
菅原とあずさは目の前で繰り広げられる影山と日向の対人レシーブに目が離せなかった。
もう長いことこうしている。
「え・・・コレどのくらいやってんスか」
と田中が驚いたように体育館へ入ってきた。
「俺が来てからは15分経ってる」
「それよりもっと前から続いてます」
「連続スか?」
「うん」「はい」
影山が打ったボールが日向の頭上を越えていく。
もうそろそろ終わる。
「うわっ影山性格悪っ、とれるかっ」
それでも日向はボールを追いかけた。
「日向の運動能力・・・中学ん時から凄いよな・・・でも運動能力とはべつに日向には”勝利にしがみつく力”がある気がする」
それだ。と菅原のその言葉で思い出した。
以前日向から感じた優れた身体能力とは別の大きな力を。
もう限界なはずの日向は必死にボールへ手を伸ばした。
「上がったっ・・・!!」
ボールは高く上がり、影山のところへ返る。
「「えっ」」
「トス!?」
「影山がトスを上げた・・・!?」
三人は息をのんだ。
「でも日向にスパイクを打つ気力なんて・・・」
田中の言葉にあずさも同調する。
そう、打てるわけがない。
あのボールを上げたのだってギリギリだった。
なのに、日向は嬉しそうに笑った。
たかい。
あの小柄な体から想像がつかないほど高く日向は跳んだ。
「ひー、相変わらずよく跳ぶな〜!」
「あんな状態から打ちやがった・・・しかも、あんな嬉しそうに」
「ほんと、すごい」
あずさはあまりの光景に呆気にとられた。
「セッターからのトスが上がるっていう・・・俺達にはごく普通のことが日向にとっては特別なことなんだろうな」
と菅原は2人を見つめながら言った。
