第11章 本編 第20章 花と紅葉、雪と金色
「徳冨、」
その言葉に、凛とした中に潜む優しげな声に反応したのか、名を呼ばれた者は微かに耳を動かすと、先刻まで激しかった威嚇が嘘のように止まり、静かに福沢を見つめる
誰の目から見ても明らかな行動の変化に手応えを感じた福沢は再度、名を呼びながら驚かさない様に、怯えさせない様に足音をなるべく立てずに、静かに歩み寄る
そして、手が届く距離まで近付くと福沢は先刻と同様に怯えさせない様、静かに身を屈めるとしなやかに伸びている毛に手を伸ばし、徳富の頬を優しく撫でると共に言葉を発した
「徳冨、もう善い
お前が皆を護る為、異能力を使ったことは知っているーーだが、もうお前だけが護らずとも善い……
私が迎えに来た故、案ずるな
……よくこれまで皆を護ってくれた……感謝する、徳冨……」
自らの異能を好いていなかった徳富が限界を超えてまでも社員達を守ろうとしたこと――それが善く伝わった福沢はその感謝を体現する様に彼へと身を寄せ、言葉を紡いだ
「その者達は死なせぬ……必ず、私達が助ける……故にもう、お前が案ずることは何もない
ゆっくり休め……徳冨、 」
その言葉に徳冨は身を寄せる福沢を食い入る様に見つめていたが、その瞳を次第に細めると共に受け入れるように彼へと擦り寄る
「社へ戻るぞ、徳冨……」
労わる様に頬を撫でる福沢の言葉に張り詰めていた糸が切れたのか、ほんの少し表情が和らいだ徳冨は彼の方へと倒れ込むように重い音を立てて、身体が大きく傾いてゆく
しかし、その前に太宰が能力を発動させた事により、徳冨は青く淡い光を受けながらこの場に居る者達が見慣れた姿へと戻ってゆく
――同時に徳冨が背に乗せていた国木田達が放り出される様に地面へと身体が傾いてゆくのを徳冨同様に地面へ倒れる前に各々が受け止めた
そして、徳冨が1番最後に福沢によって受け止められた
先刻よりも徳冨との距離が縮まると福沢にしか感知できない程ではあるが、柔らかく鼻腔を擽る香りがした事により、彼は幾分か安堵して胸を撫で下ろした