第10章 本編 第17章 海の見える丘に咲くミモザの木の下で君と
「社長、彼は、健次郎君は……」
小さく呟く太宰に福沢は改めて視線を向けた
「私や異能特務課、そして、ポートマフィアの復讐の為に、生かされている……」
太宰の言葉に福沢は先刻、異能開業許可証についてを、特務課についての想いを話していた徳冨の表情が頭を過った
「でも、本当はーー誰よりも……私よりも、この酸化した世界で生きている人です」
実体もなく、得体の知れない……例え言葉にしようとしてもし尽くせない様な並々ならぬ想いを感じているのか、それが声に現れている太宰に福沢は沈黙していた
福沢もまた、徳冨の想いを感じる節はあったのか、太宰の言葉にも驚くことなくただ、静かに彼の話に耳を傾けていた
「今の彼は誰かに対する復讐心だけで生きています、だからこそそれを失えば、直ぐにでも死のうとする……儚くて、脆い存在です
だから、私は救いたい……この酸化した世界から彼を救い出して、私は彼に幸せになって欲しいんです」
目を細めて告げた太宰の瞳に宿る強い意志を先刻から一言も発していない福沢にも感じる処があった
「健次郎君が幸せになる処を見届けるーー
それが、大切な友と生前……交わした約束なんです
ですから、私は彼との約束を果たしたい、その一歩を踏み出すために……」
社長、と太宰は改めて目前の福沢を呼んで、見つめると再び言葉を紡いだ
「……私は健次郎君を、探偵社に引き入れたいと考えています
私に、許可を下さい
健次郎君を救うための、許可を……」
その言葉を最後に暫しの沈黙が流れたが、それを破るように福沢が小さく呟いた