第10章 本編 第17章 海の見える丘に咲くミモザの木の下で君と
「織田作は……」
しかし、暫しの後にその沈黙を破る様に太宰は徐に顔を上げた福沢へと言葉を紡いだ
「私のことを理解してくれていた、最も近しい友でした……」
何処か懐かしそうに話をするかの様に目を細める太宰に福沢は視線を送った
「そして、健次郎君にとっては恩人であり、師匠であり、友であり……そしてーー初めて愛情というものを教えてもらった人でもあった
……本人から聞いたわけではありません、ですが、誰の目から見ても明らかだったのは確かです」
しかし、太宰の言葉をある程度は予測していたのか、初めて彼の口から語られたにも関わらず、福沢は表情を変えることなく、暫しの間の内に言葉を紡いだ
「……そうか、」
「今度は此方からも質問をよろしいでしょうか?」
何だ、と福沢は太宰を促す様に視線を送った
「……突然何故、このお話を?」
純粋に問う太宰の疑問に福沢は再び何処か気まずそうに言葉を発した
「否……先刻、徳冨の様子を見に行ったのだが……終始、彼の名を呼び、魘されていた故、」
「……そうですか、健次郎君がそんなことを……」
福沢の言葉を受け、何か考え込む様に黙り込んだ後に壁へ掛けているカレンダーを見た、
そして、何かに気がついたかの様に太宰は小さく呟いた
「そうか……」
その言葉に、福沢も太宰が向けた目線へと視線を追う
「健次郎君が織田作を呼んでいた理由が判りました……
ーー今日は、彼の命日なんです、
つまり、織田作が……殺された日ーー」
カレンダーから視線を外さない太宰の呟きに、流石の福沢も思わず目を見張らせて視線を向けたが、視線を向けたまま呟いた彼とは視線が合わなかった
「健次郎君は……織田作の相棒、でしたから」
太宰が発した言葉に福沢の身体が僅かに反応を示すかの様に震えたが、先刻から視線を逸らさない彼には判らず、暫しの後に名を呼ぶと漸く視線を向けた