第9章 本編 第16章 文豪ストレイドッグ
そして、想いと共に徐々に加速してゆく歩みを止めない足と微量に香ってくる香りを頼りにたどり着いた先は夕陽が反射し、綺麗な硝子張りの大きな洋館だった
しかし、その建物は古く、既に廃墟と化していた
「社長、此処なの……?」
男の後を追ってきた青年が夕焼けに照らされる洋館を見上げながら尋ねると歩みを止めることのない男が言葉を紡ぐ
「……私も判らぬ、だが、あの者は此処にいる、と……そう言われている気がしてならぬ故、」
男は青年にそう告げるとこの洋館の唯一の入り口である少し古びてはいるが、重厚そうな扉を開く
しかし、館の中で戦闘があったのだろうか、館内に所々残っている、噎せ返る様な血の香りに思わず顔を歪ませながらも男は血に混じり、微量に香ってくる香りを頼りに足を前へと動かした
ーー
ーーー
ーーーー
そして、洋館の中へと足を踏み入れ、とある大きな扉に差し掛かった
開けた先にはーー
夕焼けが部屋に差し込む大きな広間のようであった
其処は思わず見惚れるほどの美しい場所だった
しかし、其処から一層強く香る場所があった
男は其処へ導かれるように進んだ先には血が溜まっていたのだろうか、微かに血の痕がタイルの継ぎ目に染み付いていた
それを目にした瞬間、男の鼓動が大きく鳴り響くのを感じた
しかし、それは先刻感じた淡い期待を抱いた鼓動ではない
心臓が何かを訴えかけるために暴れているような、何かを叫ぶために暴れているような……そんな、荒々しい鼓動の音であった
ーー其処から2人分の香りがしたからだ
そして、其処から一つ、男だけに濃厚と感じる香りが其処に留まっていた
それこそが、男が探し求めていた"徳冨健次郎の香り"であったーー
しかし、その姿は何処にも見当たらない
男がその姿を探すために更に香りを辿ろうとしても、彼が頼りにしてきた香りは其処で途絶えていた
だが、それは不可思議なことであった
"互いの関係性"を持ってすれば、通常ならば先刻の様に微量であっても辿れる筈であるからだーー
男は茫然と血の痕が残るタイルを見つめた