第9章 本編 第16章 文豪ストレイドッグ
「作之助……最期まで、素晴らしい弾丸だ」
そして、瞼を閉じたジイドは静かに倒れた
ジイドが持っていた銃が音を立てて落ちて行った
それを見届けた織田もジイドと同じように倒れた
「織田作っ!」
その時、悲鳴にも似た声が部屋に木霊した
それはこの場所を突き止めたであろう太宰の声であった、彼は織田へと駆け寄る、走ってきたのか、彼の呼吸は乱れていた
そして、倒れた織田を抱えると、何かに気が付いたように息をのんだ
太宰の掌に付着したのは、血だーー
致命傷であるのは明らかだった……
太宰は拳を強く握り締めて叫ぶ
「莫迦だよ、織田作……っ! 君は大莫迦だっ!」
「嗚呼……」
小さく呟いた織田の声に太宰は奥歯を噛み締める
「あんな奴に付き合うなんて……」
「太宰……お前に、言っておきたい事がある……」
織田は囁くように小さな声で呟く
「駄目だ、止めてくれ!」
しかし、太宰はそれを拒否した
嫌な予感がしたからだ、この会話が最期になるような予感が……
「聞けっ、」
喚く太宰に織田は決死の覚悟で彼の髪を掴んで言い聞かせるように言葉を発した
その眼差しは、あの時、徳冨に向けたような真剣な瞳だったーー
それに太宰は息をのんで目を見開かせる
「お前に……頼みがある、
俺の、ズボンのポケットに、原稿用紙が入っている……
蘆花に宛てた手紙だ、渡してやってくれ」
「そんなの、織田作が自分で渡さなきゃ……! 織田作が私に言ったのだよ!? "謝罪ならば自分でした方が善い"と、"その方が気持ちは伝わる"と、そう言ったのは……織田作じゃあないか……!」
それは織田と徳冨がマフィアの首領、森の指示で坂口を探していた時だったーー
銃を持った敵の目前に立ち、挑発した太宰に対して、激怒した徳冨が彼を殴ってその場から去った後に地面に伏していた彼に手を差し伸べた時に代わりに謝罪をしておいて欲しいと言った際に織田が彼に向けて言った言葉だった
その言葉は太宰の心に響いていたのだ