第5章 本編 第12章 たえまなく過去へ押し戻されながら
その日の夕刻、与謝野による検査、及び治療が終わった
外傷を負っていた傷は与謝野の異能力で完治した
ーーしかし、徳冨は未だ、目を覚まさなかった
町医者、森鴎外の言う通り、組合の長に顎に一発、攻撃を喰らったことによる軽い脳震盪が原因であった
医務室で与謝野が徳冨の病状をカルテに記入していると、扉が開いた
「徳冨の工合はどうだ、」
視線を外し、与謝野が見つめた先に居たのは先刻、会議を終えたであろう福沢であった
与謝野は首を横に振りながら静かに口を開いた
「まだ目ぇ覚まさないよ、顎に一撃……これが軽い脳震盪の原因だ、襲われた時の記憶もあるかどうかってところだ……運が善ければ、話を聞けるかもしれないが……」
与謝野は掛けていた眼鏡を押し上げると共に言葉を紡ぐ
「他にも複数箇所傷を負ってたよ……それは妾の能力で治療した、直に目が覚めると思うよ」
「……そうか、」
その言葉と共に拳を握り込んでいる福沢が目に入った
それにより、福沢は表情には出さないものの、怒りを覚えているのが与謝野には一目で判った
暫しの後に福沢が徐に口を開いた
「……徳冨は私が看ておく、与謝野君も少し休め」
福沢の唐突な提案に与謝野は小さく目を丸くした
「ずっと、看病していたのだろう」
福沢も先刻まで会議をしていたのだ……疲れているのはお互い様の筈なのにーー
しかし、野暮なことを言う心算はない与謝野は福沢の言葉を甘んじて受けることにした
「嗚呼、そうだねぇ……そうさせてもらうよ……妾は仮眠室に居る、何かあったら呼んでおくれよ」
福沢の言葉に甘えることにした与謝野は彼に向けて手を振ると共に仮眠室へ向かう……しかし、その道中、彼女は一度、振り返って小さく言葉を洩らした
「あれは相当、入れ込んでるねぇ」
与謝野は面白いものを見つけたように笑みを溢したのだった