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天命と共に 【文豪ストレイドッグス】 第三者目線

第5章 本編 第12章 たえまなく過去へ押し戻されながら


与謝野が医務室から退出するのを見届けた福沢は使われていない椅子を拝借して腰を下ろす

その時、いつもは黒い髪で隠れている筈の赤く長い綺麗な髪が覗いていることに気が付いた福沢は直そうと手を伸ばした

「さ、く……っ、」

しかし、その時、徳冨の表情が歪み、彼の口から聞いたことのある名が福沢の鼓膜を揺さぶるーー苦しげで、切なさを帯びる、その声に福沢は思わず動きを止めた

そして、あの時のように何度も、何度も紡がれる名を前に魘される徳冨ーー

しかし、福沢はどうすれば善いかの対処法は以前、学んでいた

福沢は蒲団から出されていた手を優しく握った

「徳冨……」

優しく徳冨の名を紡いだ福沢の脳裏を過り、思い返されるは……昨日、行方不明になる前に、"とある質問"を福沢に投げ掛けながら、今まで抱えていた感情を露にするような……今にも、泣き出しそうな表情をしていた徳冨

しかし、それを見られまいと走り去った徳冨の後ろ姿ーー

福沢はその姿が頭から離れなかったーーそして、今も……

「……お前はあの時、私に"異能開業許可証は命で替え得るのか"と問うたな……」

福沢は暫しの沈黙の後に静かに口を開いた

「"例え、許可証であろうとも……命には変えられぬ"」

福沢は安心させるように優しく髪を撫でる

「"誰の命も、な"……」

徳冨の真意をも見透かすように呟いた福沢は言葉を紡いだ

「それが、"私の答え"だ……」

髪を撫でていた手を滑らせた福沢は頬を伝い、流れる涙を人差し指で優しく拭った

ーー福沢の言葉は、徳冨には届いてはいないだろう……だが、これで善かったのだ

"徳冨も答えを聞きたいのではなく、誰かに聞いて欲しかっただけなのだと……福沢は判っていたのだ"

福沢が力強く、かつ、心強い言葉を発すると徳冨が魘されることも、表情を歪ませることもなくなった……

……寧ろ、満足そうに、そして、安心したかのように、笑みを溢したようにーー福沢には感じたのだった、
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