第5章 本編 第12章 たえまなく過去へ押し戻されながら
一方、徳冨を捜索している谷崎と中島は付き添いとして来たナオミと共に横断歩道を渡っていた
しかし、谷崎達と話していた筈のナオミが突如、姿を消した
それは何の前触れもなく……前から存在していなかったかのように、忽然とーー
今朝の事件を連想させる現象に谷崎達は組合の仕業であると確信し、敵の姿を探した
そして、大勢の中で敵の気配を感じ取った谷崎がとある1人の少女に手を伸ばしたーー
すると、横断歩道を歩いていた筈の谷崎達は突如、子供部屋のような場所へ飛ばされた
いや、谷崎達だけではない、彼らの周辺で歩いていた一般人も其処にいた
谷崎達を部屋へと飛ばした少女は上がり症なのか、大人数の前で息継ぎもせず、緊張したように話していたが、谷崎が一言でそれを制した
「ナオミは何処だ」
静かに怒りを滲ませ、問いかけた谷崎に対し、少女は謝罪と共にとある黒い扉を指した
谷崎達は其処へ駆け寄り、中を覗くとそこには行方不明となっていた徳冨、そして、先刻姿を消したナオミ、他数名が複数の手に囚われていた
2人は気を失っているのか、はたまた、聞こえていないのか……どちらにせよ、どれだけ呼び掛けても返事をすることはなかった
谷崎達は其処を必死に抉じ開けようともするが、鍵なしでは開かず、開くのは白い扉だけだと少女は言った
中島が白い扉へ駆け寄り、小窓から外を見ると、其処には人も、車も……全ての時間が停まり、制止した世界が広がっていた
その扉からは誰でも出られる、しかし、其処から出ればこの部屋の事は"全て忘れてしまう"
ーーつまり、"徳冨達が黒い扉に閉じ込められている"ということも忘れてしまうということだ