第5章 本編 第12章 たえまなく過去へ押し戻されながら
「この世界では"Ωが希少種"なのは国木田君も知っての通りだろう? "私や社長、乱歩さんのようなα"よりも、ね……更に、Ω人口の男女比率は圧倒的に女性が多い、小春ちゃんのようなΩの女性を希少種と呼ぶのならば、健次郎君のようなΩの男性は更に希少種ということになる」
太宰は全員に見えるように人差し指を立てると言葉を紡ぐ
「さて、ここからが健次郎君が狙われた最大の理由ーーつまり、肝だ」
太宰の言葉に全員が改めて彼を見つめた
「一般的にΩという者は才に恵まれる事が少ない"弱者"と呼ばれる者が多い……しかし、健次郎君は例外だ、先刻、国木田君が言った通り、彼は戦闘、銃、異能力、全てにおいて才に恵まれている……貴重な人材として、何処に欲されても不思議じゃあない」
「……では、小春も狙われやすいと言うことか?」
国木田は小春の方へ視線を向けると共に太宰に尋ねると彼は静かに、そして、小さく首を振り、肯定する
「そうだろうねぇ……小春ちゃんはハッカーの才がある、それを知られれば、欲する人も少なからずは居るだろうね……彼女も、充分に気をつけた方が善い、」
「……そうか、」
「……ならば、徳冨を含めた事務員の避難も考えた方が善い、ということか……」
何処か不安そうに呟く国木田と太宰の会話を聞いていた福沢は瞼を静かに開きながら言葉を発したが、彼の苦笑する声が聞こえた
「……ただ、健次郎君が大人しく言う事を聞くかどうかは別問題ですけどね」
その言葉に小春以外の者達は心当たりがあるのか、各々が何かを言いたげな表情を浮かべていた
「……それは中島と谷崎が徳冨を連れ帰ってから、私が検討する……」
福沢は仕切り直す様に咳払いをすると共に口を開く
「して、組合の方だが……此れからどう動く」
「先ず、間違いないのは組合がこれで終わるわけがないってことだね」
「はい、そして、今回の件で組合は探偵社だけでなく、ポートマフィアにも喧嘩を売りました、彼らも動き出す事は必然でしょうね」
まるで、未来を見通し、断言するような江戸川、太宰の言葉に国木田は噛み締める様に呟いた
「……3組織の抗争は避けられない、ということか……」
歯を食いしばり、呟いた国木田の背に汗が流れる
その言葉は緊迫した空気が漂う会議室に溶け込んでいったーー