第5章 本編 第12章 たえまなく過去へ押し戻されながら
「社長、」
そして、報道を横目に駄菓子を食べていた江戸川が福沢に声を掛ける
福沢は静かに江戸川へと視線を向ける
「徳冨の居場所、判ったよ」
「何処だ、」
「……組合の異能力者の中だよ、」
淡々と発せられる江戸川の言葉に福沢の目が微かに見開く
「異能の中……」
「正確には異能空間だね、そして、その能力を所持しているのは赤毛の少女だ」
「……フランシス殿の後ろに控えていた娘か……」
江戸川の言葉に記憶を手繰り寄せた福沢は静かに目を閉じると暫しの間の後、小さく呟くと静かに江戸川に問う
「……その者の居場所は、判るか、」
「……残念ながらそこまでは、少女の中に異空間があるからね……その子を見つけない限りは徳冨も見つからない……」
「……そうか、」
静かに目を閉じた福沢は再び、瞼を開くと谷崎と中島の方へと視線を向けた
「谷崎、中島と組み、娘を探し出せ」
「はいっ!」
福沢に命ぜられた谷崎と中島は口を揃えて返事をしたのを確認すると次に江戸川、太宰、国木田を一瞥する
「乱歩、太宰、国木田」
「はっ!」
「私と来い、会議を行う」
踵を返した福沢は各々に指示を与え、部屋を出ようとした
しかし、扉の前で一度立ち止まると再び、谷崎と中島を呼び、言葉を紡いだ
「徳冨を……頼んだぞ、」
福沢が谷崎達の方へと振り返ることはなかったが、彼らに託すかのように伝えた言葉はーー"何処か、弱々しさも感じられた"
短くも、想いの籠った福沢の言葉に谷崎と中島は決意を新たに先刻と同じく息の合った返事をする、そして、彼らの逞しい言葉を背にーー福沢はこの場を後にした
また、福沢に続くように大宰も、更には、小春に資料の進捗確認を終えた国木田もこの場を後にした
そして、この場に残っていた小春が資料を印刷している中、徳冨捜しに意気込む谷崎達は早速、彼を探しに行こうと事務所を出ようとしたーー
しかし、谷崎達は未だ社内に残っていた江戸川に呼び止められた、彼らは揃って振り返る
すると、江戸川は谷崎達を指してこう告げた
"歩道には気をつけろ"とーー
それが何を意味しているのかは、一部始終を目撃していた小春にも判らなかった