第5章 本編 第12章 たえまなく過去へ押し戻されながら
「して、徳冨は……」
福沢は昨日から調査を進めている谷崎へと視線を向ける、しかし、彼は徐に首を横へ振る
「矢張り、社宅にも帰ってません……」
「……そうか、」
「念のため、社宅の電話にも、先刻からずっと掛けているのですが……」
先刻から谷崎は肌身離さず携帯電話を持ち、頻りに気にかけているが音沙汰はない
「いや、電話を掛けても無駄だよ」
しかし、谷崎の言葉を否定したのは大宰であった、彼が太宰へと視線を向ける中、言葉を続けた
「健次郎君は筋金入りの機械音痴だ、社宅の電話には出られない……携帯電話も、持っていない筈だよ」
もしかしたら、電話の掛け方も知らないんじゃないかな、と太宰は顎に手を当てて小さく呟いた
「機械音痴……?」
「あっ……!」
事情を知らない小春が首を傾げている間に中島は機械音痴と聞いて思い出したかのように声を上げた、全員の視線が彼へと向く中、口を開いた
「……そういえば、先日、乱歩さんとお仕事へ行った際に1つ前の切符を買っていらっしゃいました……徳冨さんご本人は、最後まで認めていませんでしたが……」
「……それは誠か、」
福沢が尋ねると中島は苦笑を浮かべながらも頷いた
「……そうか、しかし……これからの事も考えて、徳冨には携帯電話を持たさねばならぬな……」
福沢は小さく息を吐き、額に手を当てながら呟くも、それも一瞬で、手を離すと谷崎の方へ視線を向けて言葉を続けた
「……して、谷崎、調査の方だが……相手の手の内が分からぬ以上、単独での行動は危険故……調査の継続は断念せざるおえぬ」
静かだが、凛とした声が言葉を紡いだ
「故に調査は中止とする……ご苦労だった、谷崎は暫し待機せよ、善いな」
「はい、判りました」
「逆らう探偵社も、用済みのマフィアも全て消す……か、」
福沢が谷崎を労う中、太宰は報道を見ながら小さく呟いた