第5章 本編 第12章 たえまなく過去へ押し戻されながら
社を出た福沢は横浜の街を歩いていた
しかし、中てもなく歩いているわけではない
ちゃんと目的がある
福沢は微かに香る徳冨の香りを追っていたのだ
福沢はαだ、Ωの香りを嗅ぎ取るのは本能的に得意とする
その為、例え"どれだけ"離れていても、香りを辿り、相手を見つけ出す事等容易である
その上、相手は福沢の天命の番である徳冨だ
ーー天命の番とは通常の番よりも固く結ばれている、"簡単に離れられはしない"
そして、それは例え、徳冨と番になっていない福沢も例外ではない
福沢は最も香りが強い場所へ辿り着き、足を止めた
「……他のαの残香、か」
また、他のαの香りも嗅ぎ取る事が可能だ
しかし、それはΩ程得意とはしていない、だが、徳冨の香りとはまた別に、福沢と同じくαの香りが漂っていた位は感知できる
ーーつまり、徳冨は"この香りの持ち主と接触していた"ということになる
福沢は更に詳しい状況を知る為、物色するように辺りを見回して調べる
すると、近くにあった煉瓦造りの建物が派手に壊されていた、更に視線を下ろすと血液が地面や煉瓦等に所々、付着していた
腰を屈めた福沢が其処を指で撫でる様に触れてみると未だ滑りがあり、乾いていない事からそれほど時間は経っていないとみた
「……戦闘でもあったか、」
眉を潜め、呟いた福沢は視線を上げ、立ち上がろうとした刹那、足元で"何か"の音がした
ーーふと視線を下ろすと、
「……っ!?」
"視線の先に映るもの"に目を見張らざるおえなかった福沢は同時に息を詰める
それは此処へ来て、福沢が初めて見せた"動揺"であった
ーー何故ならば……"徳冨がいつも所持している銃"が赤い海の中に落ちていたからだ