第4章 体育祭、それぞれの準備
『ごめん、すぐ言わなくて…』
君はいつだって僕の心配をしてくれるのに、嘘をついて
『もう怒ってないから、そんな謝らないで?
…早く、個性が上手に使えるといいね!』
いつか、そう遠くない未来で
アザミちゃんの笑顔を守れるように
―――そんなヒーローに、なれるように。
*
だから、僕がアザミちゃんを泣かすなんてことは絶対に!絶対にあってはならないんだ…!
「……ん!デ……ん!
デクくんっ!!」
「――はっ?!」
「デクくん、またブツブツ言ってたよ?」
アザミはグイッと緑谷に顔を近づける。
(ち、近…っ!)
「…まだ具合悪いとか?」
「ち、ちがうよっ」
「本当に?ちょっと顔赤くない?」
「ほ、本当だよっ!」
「ん〜〜?」
アザミは訝しげに緑谷を目で追い詰める。
(っわ、だ、だから…近いって!!)
緑谷はたじたじで、赤くなりかけている顔を隠した。
「…そうだよね」
「え?」
アザミはパッと緑谷から離れ背を向ける。
いざあっさりと離れられてしまうと寂しいのは何故だろう?
「……仲直り、したもんね!
もうあんな、無茶はしないもんねっ」
アザミは振り向きざまにふわっと笑い、サラッと髪をなびかせる。
緑谷にはその一瞬がスローモーションに映り、彼女の姿が鮮明に目に焼き付けられた。
「――――――、うんッ…!」
アザミちゃんが眩しくて
暖かくて、優しくて――大切で
嗚呼、ずっと笑っててほしいなぁって
その笑顔をずっと見ていたい。守りたいなぁって
(――――好き、だなあ)
「ん…?僕は、」
今、何を思った?
(…すき?)
すき
スキ
好き
「好……わあーーーーーーッ?!!!」
緑谷は赤くなる顔をバッと両腕で覆い隠す。
「違う!違うんだ!!
人として!人としてだ!!アザミちゃんは僕の幼馴染であってお姉さん的な存在であって昔から僕のことを助けてくれるし庇ってくれるから慕う気持ちがあるのは不思議じゃないむしろ自然なことであってとても尊敬しているし感謝してもしきれないだからそう思うのは普通なことで全然おかしくない……」
僕の“好き”は、まだ遠い未来の話だ。