第4章 体育祭、それぞれの準備
(本当に本当に、どうしようかと思った…ッ!!!)
アザミちゃんと二度と連絡も取れず、話すこともできずに会えなくなってしまうのではないかと。
「――っ」
怖かった。
アザミちゃんが居なくなると思った。
幼馴染で、いつも身近に感じられて。
“必ず”と言えてしまうほど僕を守り傍に居てくれるお姉さん的存在がいなくなるなんて、考えたことすらなかった。
アザミと喧嘩した時を思い出すだけで、緑谷はヒヤッと体の芯から冷たくなりそうな気がした。
(喧嘩、か…)
そもそも。
緑谷は誰かと喧嘩なんてしたことがなかった。
無個性であることを周囲から蔑まれ虐められ、雄英高校に入学するまで友達と呼べる者はいなかったのだ。
(初めての喧嘩相手が、まさかアザミちゃんになるなんて…っ!)
今まであんなに良くしてくれたアザミちゃんを不安にさせ、心配をさせてしまった。
泣かせてしまう所だった。
…恩を仇で返すようなことを、してしまった。
緑谷はUSJ襲撃事件の日の、帰路を思い出す。
*
『デクくんの個性は、なんか……なんか、嫌だ。
デクくん、怪我してばっかなんだもん』
『僕…まだ、個性がうまく使えてなくて』
『ねぇ、個性が出たのって、あのとき?』
『あのとき?って…』
『私、感じたの。…うまくいえないけど、第六感的な?
雄英高校の、入試試験の日―――』
『そ…、そ…………―――ッ
―――そうなんだっ!
…め、珍しく後天的に現れた個性で!
増強型で!超パワーなんだ!』
(違う、違うんだ…っ)
本当はオールマイトから授かった個性で、正しく君の言う通り雄英高校入試試験日に継いだばかりだ。
オールマイトに個性について釘を差された事を思い出す。
この個性が世に知れ渡れば、力を奪わんとする敵が現れる事。社会の混乱を防ぐために秘密にしなければならない事。
(敵が現れ、社会の混乱…)
即ち、アザミちゃんの住む街に。
社会に敵が現れないようにするために。
(―――――守る、為に。)
僕は、秘密にする。
『ごめん』
――――ごめん、アザミちゃん。