第3章 《僕》のオリジン
(やっぱり、アザミちゃんは…すごいやっ)
全ての不安を払拭してしまうんだ!
今からだって、僕はまた頑張れる。
もう悩まないし、迷わない。
「……………すき、だなあ」
意識せず、緑谷の口から自然に溢れた言葉だった。
「あ、この菓子パン?美味しいよね〜」
「ぅわっ?!
そ、そそそそそそそうだよね!!!」
「“そ”多くない?!じゃあ、食べながら帰ろう〜!」
「え?!僕はまだトレーニングが…」
「ダメ」
「えぇ?!」
「手」
「手?」
「…痛いんじゃ、ないの?
手だけじゃなくて、身体中のあちこちが、さ」
「な、なんでわかって…?!」
「んー、なんとなく。痛そうだなあと思って」
アザミは緑谷の手を労るように擦る。
彼女の手はさほど温かくはない。しかし、不思議なことに触れられたところからじんわりと胸の奥まで温まっていく。凝り固まった心身が解されていくのがわかる。
「さっき“ガンバレ”って言ったけど、休むことも必要だからね」
アザミは袋から絆創膏と消毒液を取り出す。マメが潰れ痛々しい緑谷の手を丁寧に消毒し絆創膏を貼っていく。
「上手くいかない日だって、自己嫌悪に陥っちゃう日だって。たくさんあると思うの」
「よし、これで大丈夫!」とアザミは緑谷の手をぽんっと優しく叩き治療完了の合図を出す。
「私、ヒーローは……じゃないけど、デクくんのことは応援したいの」
「えっ?」
「……ううん、なんでもない!」
“ヒーローは好きじゃない”
そんな風に聞こえた気がしたが、聞き返す間もはぐらかされてしまった。
「…私も、頑張る。
デクくんのおかげで、もっともっと頑張ろうって思えた!」
「そんなこと、」
「デクくんは凄い!
私にもこうやって勇気をくれるんだもん!
やっぱり、デクくんは私のヒーローだね!」
「…ッ」
無個性の僕を、ヒーローと言ってくれるなんて。
今もこれからも、そんなことを言ってくれる人なんていないだろう。
(君は…アザミちゃんは、なんの気もなしに昔から僕を救ってくれる)
ヒーローのように個性を使って助けてくれるわけでも、ましてや本人は人助けをしてる自覚なんてこれっぽっちもないだろう。