第3章 《僕》のオリジン
「だから、嬉しかったんだ
“頑張れ”って、言ってもらえることが!
“あぁ、頑張ってもいいんだ”って思えたから…ッ」
「―――ッ
…っ、何度だって、言うよ!」
アザミはスクッと立ち上がる。
「デクくんが望んでくれるなら、何度だって言うよ…!
―――――デクくん、頑張れっ!!」
アザミは応援団のように「フレーッ!フレーッ!デ・ク・くーん!!」と人気のない暗い海に向かって叫びながら手振り身振りする。
そんな彼女を見て緑谷は「ちょっと大袈裟だよ…っ!」と恥ずかしそうに慌てた。
「…本当は、ね」
「?」
アザミは緑谷に背を向けたまま話し出す。
「デクくんに“頑張れ”って言ったこと、後悔してたのっ
…デクくんは、もうずっと頑張ってるのに、“頑張れ”だなんて……
もっと、苦しめちゃったんじゃないかって」
「僕が、ずっと頑張ってる…?」
緑谷はキョトンと大きな目をパチクリさせた。
「はは、無個性なのに…僕なんて、
全然、そんなこと「あるよ」
「え…?」
「そんなことない」と言いかけた緑谷の言葉をアザミは否定の意を込めて遮った。
「個性とか!無個性とか、…関係、ないよっ!」
「…アザミちゃん?」
(怒って、る?)
緑谷を見下ろすアザミの表情は、暗がりで見えない。
「ヒーローオタクを突っ走るデクくんは!
周りのことなんて、なーんにも見えてないのっ!
ヒーローが大好きで、憧れで、無我夢中で…あぁ、ヒーロー…オールマイトはデクくんの全てなんだなぁって!
そんなデクくんを見てて、いつも心の中で“ガンバレ!”って思ってた!」
熱弁するアザミはギュッと握りこぶしを作る。しかし、すぐにその手は力が抜けてしまった。
「――――でも、言えなかった
そんな、他人事、みたいなこと…
頑張った先に、それに見合うモノが手に入るかなんて、私には分からないから…ッ!
一方的な気持ちの押し付け合いになるんじゃ…って、思ってたから。
こんなに傍に居たのに、気づけなくてごめんねッ…!
“ガンバレ”って言えなくて、意気地なしでごめんね…ッ!」
僅かな月明かりが、アザミの瞳から溢れた何かをキラッと照らした。