第3章 《僕》のオリジン
ぎゅううっと、より強く緑谷に抱き締められる。
「っ…!」
今までになく心臓がドッドッドッと暴れ狂い、身体中から汗がぶわっと吹き出してくる。
驚きと恥しさと困惑で、身動きひとつどころか息の仕方さえわからない。
(一体全体、どうなってこうなったの………?!!)
アザミはあわあわと慌てふためくものの頭の四隅では心臓の音が聞こえてないかな、とか。汗臭くないかな、とか。そんなことばかりに気を取られていた。
だからアザミは気づかない。
この状況はもちろんのこと、緑谷に触れられることが、抱きしめられることが、嫌じゃない。ということに。
「アザミちゃん」
「ッ!?、デク…く…」
聞き慣れた自分を呼ぶ声なのに、凜とした真剣さに戸惑う。
「…ッ」
緑谷の姿に、意識をすべてを持っていかれた。
アザミの瞳に映る彼はキラキラと眩く輝いていた。
いや、そう見えただけで。
実際は緑谷の背後の夜空の星が光を放っていただけだろう。そうに違いない…しかし、
「僕は、必ず
君に追いつくよ」
どうして、こんなにも真っ直ぐで眩しいのだろう。美しくて儚いのだろう。
胸が痛くて、苦しいのだろう
「……うん…ッ」
腕の中の流れ星が消えませんように。
そんな願いを込めて、アザミは緑谷をめいいっぱい抱き締め返した。
「アザミちゃん…」
「…デクくん?」
緑谷はじぃっと熱い視線をアザミに送り、彼女の頬にするりと手を添える。
「アザミちゃん、可愛い…」
「…えっ?!ちょ、どうし…?!」
緑谷の、そばかすのある可愛い顔が、どうしようもなく格好良く見えアザミの胸がキュンっとうずく。
緑谷の顔がゆっくりと、けれど確実にアザミの唇に近付いていく。
緑谷に身を委ねかけていたアザミはここでハッと我に返った。
(こんなの、恋愛経験の乏しい私にだってわかる…!!
こ……、これは!!キッ、キスする流れなんじゃぁ…?!?)
「待っ……デク、くんっ…!」
「夢でしょ」
「えっ?」
「これは夢でしょ」
「夢…?」
「アザミちゃんが、ここに居るはずないよ…だから、」
いいでしょ?、と。