第1章 《 》の幼馴染
「も〜心配ご無用っ!それはバイトしてる私の特権だから、いいんだよー!」
「そうなんだ…!アザミちゃん、ありがとう」
「いいえっ♪デクくん家の夕飯はカツ丼だね、きっと」
カップルらしさどころか(カップルではないんだけれど)、色気の微塵もない会話。
けれど、アザミちゃんと帰路につきながらの会話はとても心地よい。
「ねぇ、アイス!食べよっ!」
アザミちゃんは袋からガサゴソとアイスを取り出す。二人で半分個するアイスだ。僕が知らない内に購入していたようだ。
パキンッと半分に折り、片方を僕に差し出してくれた。
「はいっ!」
「あ、ありがとう…!」
…なんか、高校生カップルみたいだ。
僕の胸はまたキュンとなる。なんて単純な心臓なんだろう。恥ずかしさやら照れくささやらを隠して、なんともないフリをしてアイスの片方を貰う。
(こんな風に思ってるのは、きっと僕だけなんだろうなあ…)
何故か悲しくなり、気持ちがシュンと沈みかける。
「ね、デクくん!
すーっごく、楽しかったね!」
夕日に照らされたアザミちゃんの顔は、照れたように赤らんで見えた。
「…僕も!、楽しかったよっ」
スーパーでただのお遣いだけど。
とても楽しそうな今日1番のアザミちゃんの笑顔が見れただけで、僕の沈んでた気持ちは一瞬で持ち上がる。
「……私ね。またこんな風に一緒に帰れるなんて、思わなかったよ」
「僕も、思わなかった」
太陽が沈みかけ、夕焼けで世界が真っ赤に染まる。二人でその光景を眺めているせいか、少ししんみりする。
「ビックリしちゃった!デクくんとかっちゃんが雄英高校に入学するなんて!」
「そ、そうだよねっ」
僕だってそう思う。
オールマイトの母校である雄英高校のヒーロー科に入学できるなんて、夢のようだ。
「相澤先生の個性把握テスト、キツくなかった?」
“個性”というワードに思わず肩がビクッと跳ねる。
「ま…まぁ、なんとか!相澤先生も“除籍する”とか言って!冗談キツイよねっ!」
ははは、と僕は苦笑いを溢す。
……オールマイトから授かった僕の個性について、まだアザミちゃんに言えていない。