第3章 《僕》のオリジン
「…アイツの………ッ!!、
アザミの名を出すんじゃねェッッッ!!!」
かっちゃんの怒りに呼応するように、僕の肩に置かれている彼の手からバチバチッと爆発音が激しく鳴る。
「…ッ!!」
「…アザミの話を、俺の前で二度とすんじゃねぇぞッ!!!」
「……っ」
「いやいや…流石に何か言い返せよ」と、かっちゃんの取り巻きの声が聞こえたものの、僕は突っ立って震えるだけで精一杯だった。
「…ハッ!言ってやんなよ、中3になってもまだ彼は現実が見えてないのです
そんなにヒーローに就きてんなら、効率良い方法があるぜ?
来世は“個性”が宿ると信じて…
屋上からのワンチャンダイブ!!」
「ッ!」
「何よ?」
バッと振り返りかっちゃんを睨みつけるも何十倍もの眼力で睨み返され萎縮してしまった。かっちゃんの手からは個性による爆発音がボッ、バンッと鳴る。
小さい爆発だけど、僕に対する威嚇には十分だった。
僕は震え上がり、かっちゃんが立ち去るまでその場から一歩も動くことができなかった。
(バカヤロー!本当に僕がトんだら自殺教唆だぞ?!考えてモノいえ!!)
「エサじゃないよバカ、僕のノートだ…、バカ…」
かっちゃんが窓から投げ捨てた僕のノートは鯉の生簀に落ちた。びしょ濡れになったノートを掬い上げる。
なんて惨めなんだろう。
「バカヤロー…」
そう言えば、あの時も本当に惨めだった。
*
『僕も、アザミちゃんに教えてもらったあのヒーローになりたいな!』
しかし、無常にも僕は生まれながらにして無個性だと判定を受けたあの日。
幼い僕はあのヒーロー―――大好きなオールマイトの動画を指さしながら、震える声で母に問う。
『母さん……僕も、ヒーローになれるかなあ』
『ごめんね、出久!ごめんねぇ…!!』
あぁ、違うんだ
違うんだ、母さん
あのとき、僕が言ってほしかったのは……
“デクくんは、もうヒーローだよ!”
幼い頃のアザミちゃんが言ってくれたその言葉を思い出していた――――。
*
人気のない住宅街を、ひとりトボトボと帰路に着く。気づけばもう夕方になっていた。
(…身の丈のあった将来を考えよう)
僕はヒーローになれない―――。