第3章 《僕》のオリジン
個性のあるアザミちゃんに、この思いが理解される事なんて無いだろう。
けれど、絶対に微塵も感じてほしくないと何故か強く思った。
(アザミちゃんは、優しいから…っ)
知られたら悲しい思いをさせてしまう。
こんな辛い気持ち、共有なんてさせたくないじゃないか。
この気持ちは隠し通さなければいけない。
そんなふうに思う反面、例え決り文句のエールだとしても背中を押してもらえたことが本当に嬉しくて。
無個性の、僕の存在を認めてもらえたような気さえしてしまって。
「涙、とまりそう?」
目が腫れちゃうよ!とほんの少し困ったように。だけどいつも通り穏やかに笑うアザミちゃん。
僕はアザミちゃんの“頑張れ!”のひと言で茨の道でも歩んでいける。どんなに周りから認めてもらえなくても頑張れる。たったひとりでも、僕にそう言ってくれる存在が居たという事実で、僕は…
(感謝してもしきれない…)
この気持はどうしたら伝えられるだろう。
アザミちゃんに沢山感謝の気持を伝えたい。
「本当に、ありがとう〜…ッ!!!」
「ふふ、どういたしまして!」
僕は何度も何度もお礼を言った。
いや、そうする事しか出来なかった。
いい加減飽きるくらい言ったのに、アザミちゃんはその度に「どういたしまして」と優しく、そして力強くしっかりと何度も何度も応えてくれたんだ。
そうすることが当たり前で、当然のように。
僕がアザミちゃんを慕う気持ちは昔から当たり前で、当然であって。
この恋心を自覚するのはまだまだ先のお話だ。
*
(…よ、よし!)
―――――ガ、ガララッ
ぷるぷる震える手で、僕は職員室の扉を開けた。
「先生…
進路希望調査票、出しに来ましたっ!!」
「おお、やっと持ってきたか」
「す、すみません」
「…進学先、コレでいいんだな?」
「はいっ!!」
僕の進路希望先は――――――――。