第3章 《僕》のオリジン
今は河原に自転車を止め、夕日が沈んでいく様子を二人で座って眺めていた。
「デクくんは、今もヒーロー好き?」
「もちろんだよ!」
「まだノート書いてる?」
「うん!No.13までいったんだ!」
僕は喜々として“将来の為のヒーロー分析No.13”をアザミちゃんに渡し中身を見せる。
「すごい!…あっ、でもまだチェックしてないヒーローいるね!」
「えっ、誰々?!」
「Mt.レディって知ってる?」
「知ってるよ!そろそろデビューするって言われてるよね!!」
「おぉ!流石デクくん!ヒーローオタクだねー!」
「あとね!新人のシンリンカムイなんだけど!僕の分析ではっ」
ワクワクが止まらず鼻息をフンスフンスと荒くしながら、そのページをめくる僕の手を――――――
アザミちゃんの手が突然遮った。
「アザミちゃん?」
「もう、見るの辞めるね」
「………へ?」
何を言われたのかわからない
「デクくんのノート、もう見ない」
“もう見ない”
それは、拒絶の言葉だった
「な、なんでっ…?」
自分でもわかる。
視界がどんどん歪み、顔がひくひくと痙攣する。
拒絶
僕とアザミちゃんを昔から繋いでいるモノは“ヒーローが大好き”ということ。
(もう、ヒーローが好きじゃないのかな…っ!?)
それを断たれたら
僕とアザミちゃんを繋ぐモノは―――ッ
君と僕の僅かな繋がりだから、ずっと大事にしたかった、のに。
「…ッッ!!」
「こんなの、簡単に見せちゃダメだよ」
気持ち悪いよね
無個性の僕が、個性に、ヒーローに憧れて、こんなふうにノートにまとめているなんて…ッ
今日の夕礼の、HRの出来事を思い出す。
クラスメートがヒーロー科の進学に浮足立つ中、惨めさで沈んでいく自分を―――。
「ぐぅ…っ」
泣くな!泣いたって仕方ないだろ?!
だって僕は無個性なんだから―――ッ!!
「こんな……
こんな凄い分析、見せてもらうの悪いもん!!」
「………………………へ?」
アザミちゃんの思わぬ言葉で、ピタリと涙が止まる。涙が溢れそうだった僕の瞳は表面張力で溢れずに済んだ。