第3章 《僕》のオリジン
アザミちゃんが高校へ進学し、僕が中学2年に進級してから顔を合わす頻度が激減した。
通う学校がちがうようになったのだから、当たり前といえばそうなのだが。なんか、こう…うまく言えないが僕達は会えていなかった。
「うん。私、高校生になってから毎日トレーニングしてるんだよ!これでも筋肉ついたんだぁ!
…て、それもあるけど、
なんか、顔合わせにくくて、さ
ごめんね」
アザミちゃんの声は僅かに震えていた。
「そ…そんなことないよ!」
なんでもない事のように努めて明るくそう言ってみるものの、心のなかでは「あぁ、やっぱり避けられていたんだ」と涙が出そうになった。
(やっぱり、“あの日”がキッカケだったのかな…)
僕が原因で避けられているわけではないと思うが、やっぱりその事実が悲しくて切なかった。
だって僕は、ずっとずっと会いたいと思っていた。
(はは、寂しいな…)
僕だけ、僕だけが―――
「だから、今日
デクくんと会うの、楽しみだったんだあ!」
「っ!」
一瞬だけこちらを見たアザミちゃんは申し訳無さそうに、そしてとても嬉しそうに微笑んでいた。
「…春風が気持ちいねえっ!」
アザミちゃんの耳に桜が咲いたようにほんのりピンクに染まっていた。ふわっと花の匂いが香るように、アザミちゃんの髪の匂いが僕の鼻腔をくすぐった。
「…そうだね」
アザミちゃんもそう思ってくれてたんだねとか、僕も会えて嬉しいよ、とか言ってあげたかった。
しかし先程とは違う意味で涙が出そうになり、言葉にすることが出来なかった。
嬉しい切なさに飲み込まれないよう、自転車の荷台をぎゅううっと力いっぱい握りしめ深く俯向いた。
久々に感じるアザミちゃんの髪の香りを、体温すら感じてしまえそうな距離を、涙を堪えながら僕はひっそりと噛み締めた。
* * *
「あーあ、注意されちゃったね!」
テヘペロっと舌を出し反省の色が薄いアザミちゃん。うん、僕はそうなると思ってたよ?!
僕達はパトロール中のヒーローに自転車の二人乗りを注意されるも、ヒーローは「青春だねぇ〜!」なんて手を振りながらにこやかに立ち去っていった。