第3章 《僕》のオリジン
「どうぞ♪」
「し、失礼します…!」
ドキドキしながら自転車に跨ぎ、荷台に腰を下ろす。
なるべくアザミちゃんに触れないよう注意しながらそこに座る。…と、いっても、そんな距離など物理的に取れやしない。
近い、やっぱり近すぎる!!!
そしてこの手をどうするべきか!
いや、荷台に掴まるんだけど、手とサドルの距離…自分の手と、サドルに座っているアザミちゃんの、お…お尻との距離の近さ…ッ!!!!
いや、やっぱりこれは…!!
不味いんじゃないかな?!!
僕の思考回路が不味いだけなのか?!!!
これでは僕が変態みたいじゃないか?!
いや、僕は健全な男子中学生であって…!!!
「アザミちゃ、あ、あのっ」
やっぱり降りるよ、と言いかけるも、
「よし!しゅっぱーつ!!」
「え? わ、わっ!?」
僕の話など聞きもせずアザミちゃんは自転車のペダルを力いっぱい漕ぎ出した。
「ねぇ、どこに行くの?!」
「え?そんなの、待ち合わせしてたところ
ーーー河原だよ!」
「そ、そっかぁ」
(昔よく遊んでいた、あの河原かぁ)
よく水切りをしたっけ。
水切りは水面に向かって回転をかけた石を投げて水面で石を跳ねさせて、その回数を競ったりする遊びだ。
かっちゃんは何度も何度も跳ねるのに、僕は一回も跳ねさせることが出来なかった。
(僕だけ出来なくて、悔しかったっけ)
ガクッ
「ん?」
邪心を吹き飛ばすため思い出に浸ろうとしていたら、体が急に前のめりになった。
「デクくん!掴まって!」
「え?!ちょ、」
これ以上ドコに掴まるの?!
なんて聞く間もなく、自転車のスピードはぐんぐんと上がっていく。
アザミちゃんの背中越しに前方を見れば、とても長く、とんでもなく急な坂道をゆっくりと下りだしていた。
まるでジェットコースターの助走のように。
僕の心臓はヒュッと音を立てて縮んだ。
「ま、待っ…!!!!」
きちんとした前振りもなく、心構えもできないまま。僕らを乗せた自転車は下り坂を滑るように勢い良く走り出した。