第3章 《僕》のオリジン
たぶん
たぶん、だけど
この頃からかっちゃんはアザミちゃんの事が好き、だったんだと、思う
「こら!かっちゃんー!!
……もぅ…デクくんっ、立てる?!」
「う、うんっ」
アザミちゃんは地面に倒れ込んでいる僕に手を差し伸べる。
アザミちゃんの手を取り、僕は気づかれないようにホッと胸を撫で下ろす。
(よかった、もう震えてない…)
アザミちゃんは必ず僕をかっちゃんから庇ってくれる。たけど、僕、知ってるんだ。
いつも僅かに手を震わしながら、僕をかっちゃんから守ってくれていること
申し訳無い気持ちと、震えながらも僕を庇ってくれる嬉しい気持ちが心の中でぐるぐると回る。
だから、君が泣いたあの時だけは。笑わせてあげたかった。
『デクくんは、もう、私のヒーローだよ!』
結局、いつも通り僕が励まされてしまっただけだったけれど
『お嫁さんになってあげるね!』
―――そして、これは僕の最初で最後の大恋愛、だったのかも、しれない。
『デクくんっ!』
キーンコーンカーンコーン
「―――――はぁッ、?!」
学校のチャイムの音に驚き目を醒ます。
慌てて周囲を見渡せば、人気のない非常階段に座りひとり寝こけていた。
「あれ?僕、寝ちゃってたんだ…てか、寒っ…?!」
中学2年生の3月。
もう春は来ているが、朝晩はまだまだ寒い。
あと一週間もしないうちに僕は中学3年生になる。
(…そうだ、もうすぐ受験生だ)
夕礼のHRに進路希望調査の話が出てすぐ下校する気分になれず、時間潰しも兼ねてこの非常階段に来たんだった。
だって、クラスメートの皆は「高校、どこ進学する?」「個性を活かせるヒーロー科でしょ!」と大盛りあがりで、無個性の僕はその場に居たたまれなくなり逃げ出した。
その時の惨めさを思い出し、無意識に爪を噛む。
「そう言えば、今何時だろ」
時間の確認のために携帯を取り出すも、まずチェックを入れてしまうのはトップニュースだ。
超常の個性に伴い、爆発的に増加した犯罪件数は当たり前のようにトップニュースとなる。
混乱渦巻く世の中で、かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が脚光を浴びていた。