第1章 《 》の幼馴染
『え、えっと………み、見て!アザミちゃんっ!』
『ぐすっ…?』
『………も、もうだいじょーぶ!!
な、なぜって!ぼくがぁーっ!
…きっ、きたーあっ!!』
どうにかしてアザミちゃんを泣き止ましてあげたくて。最近始めた大好きなオールマイトの顔真似を、あの名台詞と共に渾身な力で披露した。
『…』
『…』
『…』
『…』
『…ぷっ』
『…アザミ、ちゃん?』
『あはははっ!ぜんっぜん、似てないよーっ!』
『そ、そんなぁ…!』
うぅ、少しは似てるかなあと思ったのに…っ!
お腹を抱えて大笑いするアザミちゃんの酷評にガックリと肩を落とす。
『ははは……デクくんは、もう、私のヒーローだよ!』
思わぬ言葉に聞き間違いじゃないかと、その言葉を聞き返した。
『ヒーロー…?』
『うん』
『で、でも、僕は…っ』
無個性、だから…ッ
『泣いてる私を助けてくれたもん…
ありがとう、ヒーローデクくん!』
誰にも言ってもらえなかった言葉。
“ヒーローになれない”と、挫折した僕を救ってくれた。
ヒーローになれるはずもないのに、“ヒーローだよ”、と
何よりも欲しかった言葉を。
『…うっ、……………………うわぁーんッ』
『えぇ?!何で泣くのぉ?!』
『だって…ッ、ぼく…っ』
『もうっ、ほら!鼻水出てるよ!ちーん!』
そう言いながら僕の鼻水と涙を可愛いハンカチで拭ってくれた。
アザミちゃんはすっかりいつものお姉さん風を吹かせたアザミちゃんに、僕はいつもの泣き虫な僕に戻ってしまった。
『うぅ…っ』
『こんな泣き虫だと、女の子とケッコンできないぞー!』
『じゃ、じゃあ…っ!泣き虫が治ったら、僕とケッコンしてくれる?』
あの時の僕は、何故こんな事を言ったのかわからない。
きっと“ケッコン”の深い意味もなく、何もわからずに言ったんだろう。
『いいよ!お嫁さんになってあげるね!』
『でも泣き虫が治ったらだよ!』と念を押すアザミちゃんの顔にはまだ涙の跡が残るものの、笑顔になってくれた事が嬉しくて。
指切りげんまんと、差し出してくれた小指に、僕の小指を絡ませた。
『―――う、うんっ!』