第1章 《 》の幼馴染
「あっ!こんなとこで喋ってる場合じゃない!早く帰らなきゃ!」
「わ、ちょっ、アザミちゃん…っ!」
アザミちゃんは「行こっ!」と僕の手を取り走り出す。
アザミちゃんの笑顔を見ただけで、心のモヤモヤした雲は一瞬で晴れてしまった。
(手…!に、握ってる…ッ!!)
あ、ちょっと視線が痛い。峰田くんとか、上鳴くんとか…っ
廊下ですれ違った相澤先生に「猫柳、廊下を走るな!」って注意されるも、「はーい!せんせーさよーなら〜!」と走り去って行くアザミちゃん(と、僕)。
あの相澤先生を受け流すなんてっ!
つ、強い、アザミちゃん…ッ
僕を引っ張るアザミちゃんの手を、こっそりまじまじと見つめる。
(アザミちゃんの手、小さい……というか、薄いなぁ)
握り慣れた手は、こんなだったっけ
僕の手なんかと違って、ゴツゴツしてなくて、手の皮も厚くなくて―――柔らかくて、綺麗な手。
だけど、昔から変わらない
暖かくて安心感のある手だ
(これが同級生の女子とかだったら、もう心臓バクバクだったろうなぁ)
というか、女子となんて殆んど喋ったことすらないし、もちろん手を握ったこともない。
アザミちゃんも女子だけど、幼馴染だし。異性というか、こう、お姉さんみたいな存在であって……ちょっと特別だ。
いつも弱虫な僕を助けてくれる、しっかり者の年上の女の子。
(あ、でもあの時は違ったなぁ)
アザミちゃんが泣いていたのは、あの時―――僕が最初で最後の挫折を経験した幼稚園の年少時、だけだった気がする。
*
アザミちゃんやかっちゃん達と遊ぶために、公園へ向かってひとり走っているときだった。
『えーん えーん』
聞き慣れた声で、聞いたことが無い鳴き声だった。
それは道端で疼くまり泣きじゃくっているアザミちゃんの声だった。
『わ?!アザミちゃんっ、大丈夫…?!』
『う…ひっく…』
泣いてるアザミちゃんなんて見たことがなかったし、彼女も泣くという事に本当に吃驚した。