第2章 USJ襲撃事件
「…昨日はそうだったけど、今はそうじゃない」
「えっ!違うの…?」
しかし、アザミが怒っていることに変わりはない。緑谷はアタフタするばかりである。
「…怪我」
「あぁ!うんっ!リカバリーガールに…」
「ちがうっ!!」
「!、アザミちゃん…っ?」
切羽詰まるようなアザミの声に、緑谷は今になって彼女がただ怒っている訳ではない事に気づく。
「デクくん、私が怒ってること、本当にわからない…?」
「え?!えぇっと…、な、なんだろ…ッ?」
アザミはフゥ…っとひと呼吸置いた。
「……かっちゃんや、1年A組の皆から聞いたよ…
何でっ、そんな無茶するの…?
死んじゃってたかも、しれないんだよ…?!
無茶しないでっ!!」
アザミの悲痛な訴えに、緑谷は目を見開いた。
「まだ高校生になったばっかなんだよ?
敵に……殺されたら…、どうするの…ッ?!」
「アザミちゃん…」
「私、怖いの…
ヒーローだって負けるんだよ…?
ヒーローが負ける意味、わかる…?
デクくん、無理しないで…お願い」
アザミは震える手で緑谷の右手を優しく、けれど離さぬようキュッと掴む。
「もう、ずっと怖い。
……みんなが皆、オールマイトみたいなヒーローじゃ、ないんだよ?
私の大切な人は、みんなヒーローになりたがって……イヤ、だ」
アザミは深く俯いていているため表情はわからない。しかし、どんな気持ちでいるかという事は痛いほど伝わる。
(アザミちゃん…っ)
何か言わなくちゃ、アザミを安心させなくちゃ、という焦りばかりが緑谷を支配する。
「ごめんね!!僕は大丈夫だから…ッ」
「…大丈夫じゃない!
ぜんぜん、大丈夫じゃないよ…ッ
私が、大丈夫じゃない
怪我、痛かったでしょ…?」
アザミは緑谷の顔に手を添え、そばかすのある頬に触れる。
まるで此処に居ることを確かめるように、壊れ物を扱うような手付きでそっと撫でる。
悲しみや不安でいっぱいで、今にも泣き出してしまいそうなアザミ。
「―――っ」
そんなアザミの姿に、緑谷は今まで感じたことのない痛みが体を突き抜きた。