第2章 USJ襲撃事件
あぁ、この人を―――
アザミちゃんを、泣かしてはいけない
(本当に、僕は何をやっているんだろうッ…)
「アザミちゃん…ッ!」
緑谷は自分の頬に触れているアザミの手に、自分の手を重ねる。
「心配かけて、辛い思いさせて、ごめんね!」
「ん…」
「もう、アザミちゃんに…そんな顔、させたくな"い"よ"…ッ!」
「うん…うん…っ!」
アザミをこれ以上悲しませないように、心配させないように。そして泣かせないようにするために。
力強く言いたかった、のに。
昂る感情が抑えられなくなり、緑谷の大きな瞳からボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ふ…なんで、デクくんが泣くの?」
「だって、アザミちゃんが…ッ」
うわあん!と泣き出した緑谷の涙を「ほら、もう泣かないで」とアザミがハンカチで拭う。
そこにはお姉さん風を吹かせるいつものアザミと、相変わらず泣き虫の緑谷が居た。
*
「……そういえばさ。思い出したの、私」
「?、何を?」
緑谷の涙も落ち着き、二人は再び帰路に着く。先程の重苦しい空気はもうどこにもない。
暗い夜道をアザミと緑谷は手を繋いで歩く。
手を繋いだのは、アザミが泣いてる緑谷を落ち着かせるためか。または緑谷がアザミを安心させるためか。
どんな理由で手を繋いだのか分からないが、2人の間にあるのは華やぐ気持ちやトキメキ等ではなく、相手を思いやる親愛からだった。
よく手を繋いでいた幼い頃と今はもう色々異なるが、あの頃に戻ったような気持ちで下校する。
「……私も、昔は上手く個性を使えなくて。隠してたこと、あったよね」
「それって、幼稚園の頃の話だよね?」
「…うん。ごめんね、自分の事は棚にあげて」
「そんなこと、僕思ってないよ」
いつの話ししてるの、と緑谷はふふっと優しく穏やかに笑う。緑谷の柔らかい笑顔が街灯に照らされ、まるで淡い光に包まれるようでアザミは一瞬目を奪われた。