第2章 USJ襲撃事件
アザミは最悪な想像をする。
血の海で横たわる爆豪の姿を。
(もしも、かっちゃんが、…死―――!)
ドクンと心臓が一際激しく波打つ。
身体中の脈がドクドクと鳴り響くほど血が巡るのに、それに引替血の気が引いて手足が冷たくなる。
かっちゃんが、いなくなったら―――
せっかく同じ雄英に来たのに、もう学食ランチができなくなる。一緒に登下校もできない。私のしょうもない話も聞いてもらえない。
仏頂面だけど満更でもない顔も、
ヒーロー志望らしからぬ悪人面で笑う顔も
怒鳴りながら心配してくれる姿も、
怒ってるけど優しさでいっぱいな姿も
いつも眉間にしわ寄せながらも何だかんだ楽しそうにしてるかっちゃんが、私の横から居なくなる。
(分からない……)
かっちゃんのいない世界なんて、知らない。
嫌だ
イヤ…
いや―――ッ!!!!
「俺は死なねェ」
「!」
「死なねェ」
「そ、そんな…」
アザミは口籠る理由は2つ。
1つは爆豪に心配かけないよう「そんな事、思ってないよ!」と言うべきか。または本音の「そんな未来、誰もわからないよ」と言うべきか、悩んでしまったためだ。
「誰にも負けねぇ、勝つヒーローになる」
「…ん」
「ハッ!こんなうっせー泣き虫、泣かせられるかよ」
「な、泣き虫じゃ、」
「アザミを泣かすヒーローになんてならねンだよ」
「ッ」
「泣かせねーし、死なねェ。
……アザミはバカみてぇに笑ってろ」
「…………泣かせ、ない、でね」
「あ"ぁ?何度も言っとるだろーがァ!」
「いなくならないで」
「ならねぇーわ!何度言やァ気が済むんだ?!」
「お願い、何があっても………………
死なないで」
「―――あぁ」
「絶対だよ」と、アザミの絞り出した声は掠れていて、アザミ自身も驚いた。
爆豪のブレザーの陰からキラリと何かが光り、滴り落ちた。アザミの足元には一滴の僅かな水溜りができた。
爆豪はアザミのソレを拭うこともせず、只々隣で彼女が落ち着くのを待ち続けた。
「…待っとるから、はよしろや」
その声音は台詞に似合わず只々優しかった。