第2章 USJ襲撃事件
「…切島くん」
「…ッ?、なんすか」
「ちょっとだけ、そのままでいてね」
―――――トッ
「え?」
切島は肩に何か当たった気がしたと思えば、自分の腕の中に居たはずのアザミが姿を消していた。
「先輩…?!
とんでる?!」
アザミは一瞬で天井近くまで高く跳び上がり、空中で一回転した。
(全てが、スローモーションに見える…)
個性を発動したアザミには、地面から跳び上がった瞬間から再び着地するまでの間、感覚がいつもの数十倍にも研ぎ澄まされそのように感じられた。
口をあんぐりと開け、自分を見上げる切島が見える。1つの非常口を目指し、生徒で溢れかえる廊下。泣く者、慌てる者、我先にと突き進む者。
(セキュリティ3が突破…という事は、外部からの侵入者がいるの!?)
視線を窓の外へ移せば、報道陣の群れが校門を通過しているのが見える。
(そっか、報道陣が入ってきたから警報が鳴ったんだ!)
アザミは際高く跳び上がったその時、息を吸い込み声を上げた。
「外見て!報道陣よ!!」
すると彼女の声に気づいた眼鏡の男子生徒が窓の外に目を向けた。何人の生徒が非常事態ではないことに気づいてくれるだろうか。
降下しながら着地の態勢を整えていると、ふと。会いたいけど会いたくない人物と目が合った。
(デクくん…!)
案外近くに居たようで、アザミを見上げる緑谷はとても驚いた顔をしていた。
(そりゃそうだよね…
私が個性を発動している所なんて、殆ど見たことがないもんね)
昔は個性を上手に使えなかったため、人前での使用は避けていた。
(個性…デクくんも、そうだったのかな…)
だから、言えなかったのかな
なら私、デクくんに酷い事……ッ
「――っ」
「!、アザミちゃ…ッ」
緑谷に酷い事を言ったにも関わらず、彼の表情から痛いほど自分の身を案じる“心配”の二文字が伝わる。アザミは彼の優しさに堪らなくなり、目を逸らした。
「…わっ、!?」
一瞬の隙が生じ、空中で上手にとっていたバランスを崩す。アザミは思わず個性の発動を解いてしまった。
この高さから落下したら間違いなく怪我は免れない。