第2章 USJ襲撃事件
「私のことは、先輩って言わなくていいよ」
「えぇっ?!なんでですか!」
突然のアザミの申出に、切島は驚いた。
「私、先輩なんてガラじゃないし。ヒーロー科でもないし、ね」
「そんな…」
切島が何か言いかけたその時、
ジリリリリリリリリ―――ッ
けたたましい警報音が雄英高校の建物中に響き渡る。
「うおっ?!何だ?!」
「コレ、警報音?!」
無機質な音声で避難勧告が流れる。
《セキュリティ3が突破されました。生徒は速やかに屋外へ避難してください》
周囲は一瞬でパニックに陥り、一斉に非常口目掛けて駆け込む生徒達で溢れかえる。
「わっ、ちょ…ッ、切島くんっ」
「おっと、大丈夫ッスか?!」
切島はアザミが人波に押し潰されないよう咄嗟に庇う。
気が付くとアザミは壁に背をつけ、彼を見上げていた。顔の両横には、彼の逞しい腕。いわゆる“壁ドン”状態になっていた。
「え、え、ちょッ、あの…っ!!」
(ちっ、近…ッ!!!)
切島の腕に阻まれ身動きがとれないアザミと同様に、切島もまた周囲の生徒からの圧迫により身動きがとれなくなっていた。
こんな非常事態の上に、まさかの状態に戸惑うアザミ。顔に熱が集まり、目には涙が溜まってゆく。
「ど、どうしよ…ッ」
互いの吐息がかかる距離に。制服同士が僅かにかすれる音に。切島から感じる体温の近さに。アザミはパニックになる。
「だ、大丈夫ッス……怯えなくても」
「き、切島くん?!」
「俺が……、
俺が、守る…ッ!」
「ッ!」
自分が押し潰されないよう必死に耐える切島の言葉を聞き、アザミは瞬時に冷静さを取り戻した。
(私ってば…っ)
先輩ぶった矢先に、コレだ
パニックになって冷静さを失って
終いにはデクくんとかっちゃんと同じ新入生に庇われて、守られて
このままじゃ私…
いつまでたってもカッコ悪いままだ
(そんなの…嫌だ!!!)
そう思ったとき、アザミは何故か緑谷と爆豪の姿が脳裏に浮かんだ。
そして静かに目を閉じ、深く深く深呼吸をした。
(……集中)
身体の全体に個性が発動するように
特に脚力と動体視力の底上げに―――集中!!