第6章 体育祭、それぞれの想い
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「…え…っ?」
アザミは声につられてパッと顔を上げる。
何かに覆われた気がしたのは、その声の主がアザミを隠すように抱き締めていたためだった。
「あ、あなたは…?」
「私?ヒーローだよ
…君たち!!寄ってたかって一人を苛めるのはどうなんだい?!」
「うッ…に、逃げろぉ!!」
よくある戦隊モノの小悪党が負けを認め立ち去るように、男子達は一目散に逃げ出した。
「いくら子どもでも、あーゆう喧嘩は良くないな」
その人を見れば。見慣れないヒーロースーツを身に纏っており、幼いアザミでもこの人は有名なヒーローではないのだろうと予測ができた。
けれどアザミの目には、そのヒーローがぴかぴかと光り輝き、No.1ヒーローのオールマイトよりも誰よりも格好良く美しく見えた。
「お嬢ちゃん、怪我はない?」
「な、ない、けど…っ
…私、男の子を、怪我させちゃって…っ!」
「大丈夫だよ、誰も怪我してない」
「う、うそよ!だってほんとうに…!」
肉を爪で引き裂く生々しさや血の生温かさは、忘れもしない。忘れたくても忘れられない強烈な感覚と視覚だった。アザミは冷汗を額に浮かべながら、人を傷つけてしまった己の手を見る。
「あ、あれ…?」
猫の手や爪はいつの間にか見慣れた普段の人間の手に戻っており、人を傷つけた痕跡の血は綺麗サッパリなくなっていた。
「……お嬢ちゃんが引っ掻いちゃったのは、私の腕だよ」
「…えっ?!でも、どこもケガなんて…」
ヒーローの腕を見ると怪我はどこにもなかった。怪我はないが、ヒーロースーツの腕部分には引っ掻き傷のような裂かれた穴があり、紛れもなくアザミが原因でできた穴だろうと想像できた。
「私の個性は超再生!
こんな引っ掻き傷なんてすぐに治っちゃうのさ!
…ちなみに、お嬢ちゃんの手はマントで綺麗にしちゃったよ!赤いマントだから、ほら!全然わかんないよ」
そのヒーローは何てことない!と爽やかに笑ってみせる。ヒーローの笑顔はアザミの不安や恐怖を一瞬にして吹き飛ばした。