第6章 体育祭、それぞれの想い
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――14年前。
「個性が不安定だね」
「個性がふあんてい…?」
4歳のアザミは母親と病院に訪れていた。
「正しくは細胞が、だね」
「さいぼう…?」
「先生、やっぱり何処か悪いんでしょうか…?
だから、アザミは人になったり…獣、になったり、するんでしょうかっ?!」
当時のアザミは個性が発現してからというもの、人の姿になったり獣…正しくは猫の姿になったり。またはその2つを掛け合せた姿になったりしていた。
「いいや、そんなことはないよ。個性が“猫”の変形型だね。
通常時は人間の体をしてるけど、自分の意思で個性を発動すると肉体が変化する型ね」
「…私の個性、猫なの?」
「うん、そうだよ」
「化け物とか、じゃ、ない?」
「うん、違うよ。
猫そのものにも変形できるし、身体の一部を猫に変形することもできるんだよ」
だから人間のような、猫のような姿になってしまうこともあるんだよ、と。医師は手を組みながらリラックスした様子で母親とアザミに告げる。
「ただ、細胞が不安定というのは個性に左右されやすいということ。
成長して心身共に元気に育っていけば、自ずと個性も上手に使えるようになるでしょう」
「…大きくなれば、変な姿にならない?」
「ならないよ。だから沢山食べて、沢山遊んで、大きくなるんだよ」
アザミは大きく頷いた。
何も心配いりませんよ、という医師の言葉に安心した母親は大きな溜息を吐く。
「私の個性、猫なんだね!」
「何も異常がなくて良かったわ」
二人は手を繋いで病院を出ていく。
しかし、アザミの身体や個性に問題がないと分かったものの、日常が急に変わることはない。
「帰ったらデクくんとかっちゃんと、遊びにいってもいい?」
「元気ねえ、いいわよ。…だけど、1つ約束して?
お外では個性を使わないって」
「どうして?」
「…まだ、上手に個性が使えないでしょ」
「…………うん、わかった」
“上手に個性が使えないから”
アザミの母はそう言ったが、本当の理由はそうではないことをアザミは何となく察し、それ以上追求しなかった。