第5章 ◆◇短編*ミッドナイト夢 叶わぬ夢◇◆
お姉ちゃ…ミッドナイト先生の声が通信機を通して耳に届く。「嗚呼、やっぱり私じゃなくて八百万なんだな」と真っ先に思ってしまった。しかし、それも束の間。
«法律違反になっちゃうけど…事態が事態よ»
事態って…プロヒーローが集結してるんでしょ?
«眠らせたい。ヒーローに麻酔を渡して…!»
眠らせるって、何でミッドナイト先生がやらないの…?
«その場を離れなさい…!避難を…!»
避難って…何で状況が悪くなるの?
聞いたことない切羽詰まった声に動揺を隠せない。私は事態が呑み込めずただ呆然としていた。
«アザミ?…聞こえる…ッ?»
「!、ミッドナイト先生?」
私の名前が呼ばれた。
八百万にあんなに嫉妬したのに、不思議なことに少しも嬉しくなかった。
«…こんな、私用で…ッ使っちゃ、駄目、だけど……»
「―――お姉ちゃん?」
公私混同をあんなに避けてたお姉ちゃんが、こんな事する…?
«……アザミの、ことが…ッずっと、大好きよ……!
ザザ…ザザザーーーーー………ブツンッ»
「―――っ、お姉ちゃん?!!」
嫌な汗が、頬や背中を流れ落ちる。
(何で…こんな時に…)
この非常事態の今に何故、走馬灯のようにお姉ちゃんとの思い出が蘇るのか。その中には先日二人で過ごした事も含まれていた。
“私がヒーローになりたいのは、他の誰でもないお姉ちゃんに憧れたから”
“あわよくば、お姉ちゃんのサイドキックになって。
なんなら姉妹でヒーローコンビ組んじゃったりして”
――――――お姉ちゃん
――――――大好きなお姉ちゃん
私の夢は、叶いますか?
《短編*ミッドナイト夢 叶わぬ夢 終》