第5章 ◆◇短編*ミッドナイト夢 叶わぬ夢◇◆
「体の芯まで冷えちゃったわね〜
帰ったら一緒にお風呂入りましょう」
「え、一緒に?!」
「だってお互い冷えちゃったんだもの。早く温まった方がいいじゃない」
「まあ、そうだけど…」
一緒にお風呂入るなんていつぶりだろう。
……それも小学生以来かもしれない。
「一緒にお風呂入って、美味しい物食べて。
たーっくさんお喋りして、一緒に寝ましょうね」
「!、う、うんっ」
私が終わらせてしまったと思っていた楽しみが、これから家で待っている。嬉しさでいっぱいになり「入浴剤入れたいな、泡風呂になるやつ」とはしゃいでしまう。
……ダメだ、やっぱり子どもだね、私。
「明日は課題、頑張りなさいよ」
「う"、バレてる!」
「当たり前でしょう!アザミったら全然課題してなかったじゃない!」
「も〜煩いなあ」
「…なーんて、家でもついつい言っちゃうの。良くないって分かってるのにね」
私だって、分かってるよ。
お姉ちゃんがいつだって私を気にかけてる、なんて。私を1番大切に思ってくれてる、なんて。
「……お姉ちゃん」
「ん?」
“大好き” “いつもありがとう”
そんな事、言ってあげれないけど
「…私は、いつまでもお姉ちゃんの妹だからね」
もう少し、私が大人になったら言えるかな。
「当たり前じゃない!ずーっと妹でいてね」
素直に言える日が、いつか来ますように。
そう願いながら、大好きなお姉ちゃんと手を繋いで夜道を歩いた。
誰かの役に立つことが好きだ。
「ありがとう」って言われることも好きだ。
だからヒーローになりたい。
だけど、本当の理由は。
お姉ちゃんを助けたい。私を育ててくれたお姉ちゃんの力になりたい。惜しみなく愛情を注いでくれるお姉ちゃんと同じように、私もそうしてあげたい。
そうなるためには、私もヒーローになってお姉ちゃんと同じ土台に立たなくてはダメだ。………だから、早く大人になりたい。
世界一大切なお姉ちゃんの手を離さないように、私は密かにギュッと握った。