第5章 ◆◇短編*ミッドナイト夢 叶わぬ夢◇◆
「ヒーローになったのは。
誰のためでもない、私のため」
そう言い切るお姉ちゃんの横顔は凛としていて、月明かりに照らされる美しい姿だった。
女性が憧れる格好いい女性だなあと思った。
「…本当に?私のせいじゃ、ないんだね」
「本当よ!!……ごめんね、アザミ」
「えっ、何が?」
「ちゃんと、本当のことを言わなくて」
貴方の気持ちを尊重してあげれなくて、と謝りだすお姉ちゃん。今日は本当にどうしたのだろう?
「………私が、全然妹離れできてなくて」
「え、えぇ?」
お姉ちゃんは私が思いもよらない事を言い出した。
い、妹離れ?
「アザミがちゃんと自立してて、やれば何でも出来ることなんて知ってるわ!知ってる、けど……
もう少し、私が貴方と一緒に居たいのよ」
お姉ちゃんは目を細め、じっと私を優しくみつめて話し出す。
「アザミが一人暮らしをしたがってるのは、知ってるわ。
……アザミがヒーローになって、私の助けなんて何もいらなくなって。適齢期に誰か良い男が現れたら。きっとすぐに結婚しちゃうでしょう?
そしたらもう、一緒に暮らせないでしょ」
そうなったら私が寂しいの。だからごめんね。もう少しだけ一緒に居させてね?、と。
お姉ちゃんの泣きぼくろがある色気顔が、何故かとても儚げで、優しさに満ち溢れてて。だけど切なくて、寂しそうで。胸が締め付けられた。
……バカ
お姉ちゃんは、大バカだ。
「………ッ、もーー!!
何年後の心配してるの?私まだ高校生だよ!」
その時になっても彼氏すら出来ていないかもしれないが。それはひとまず置いておこう。
「そうなんだけどねぇ。アザミがお嫁に行っちゃうと思うと、寂しくてね」
「なんか既にオバサンぽいね?大丈夫?」
「オバ?!………アザミ、美術の成績楽しみにしてなさいね」
「ちょっと!だから職権乱用だって…!」
再びぎゃあぎゃあとフザケだす私達。もちろん、騒音迷惑にならない河川敷で。
お姉ちゃん、ごめんね。
折角お姉ちゃんの想いを話してくれたのに、笑い飛ばして。
ごめん、許して。
すごくすごく泣きそうなの。