第5章 ◆◇短編*ミッドナイト夢 叶わぬ夢◇◆
「…ッお姉、ちゃん」
私の前で仁王立ちするお姉ちゃん。
怒られる。
瞬時にそう思い身構えた。
だって、先程から携帯が鳴りっぱなしだった。お姉ちゃんからの着信で履歴がいっぱいになっている事が容易に想像できる。
「全く!こんな夜中に飛び出すなんて!」
「…ッ」
「………………
……っはーー!やっぱ外は寒いわね!
はい、どっち飲む?」
「え?」
お姉ちゃんの右手にはココア、左手には紅茶の缶飲料が握られていた。どちらも私が好きな飲み物だ。
「ん、ほーらっ!」
中々選ばない私に痺れを切らし、ズイッと2つの缶飲料を私の顔に寄せる。
「…………ココア」
お姉ちゃんは「はい、どうぞ」と私の手にココアの缶飲料を握らせ、隣の空いているブランコに腰を下ろした。
……あったかい。
何かが込み上げてしまいそうで、私はぐっと堪えた。
「……怒ら、ないの?」
「あら、怒ってほしいの?」
キョトンとするお姉ちゃんに拍子抜けしてしまった。
「だって、こんな時間に外、出てったから…」
「まあ、普通の女の子だったら危ないわよね。
でも貴方はヒーローになるために日々訓練してるし、そんじょそこらの輩になんて負けないわよ」
アザミの実力は先生を勤める私が1番知ってるもの!と、自信満々に言うお姉ちゃん。
「何それ…」
私の事、まだまだ子どもって言ったくせに。
だけど、そんな誇らしげに言われてしまったら…っ
「…ふんだ。どうせ、まだまだ子どもだし」
「そうねぇ」
「っ」
私はまだまだお子ちゃまだ。
外を飛び出したらお姉ちゃんが追いかけてくれるなんて分かっていた。本当に顔を合わせたくないならば逃げ続けるべきなのに、私は隠れもせずブランコに乗っていた。
だって、お姉ちゃんに見つけてほしかったから。独りは、寂しいから…
「青春真っ最中だものね、アザミは!
夜の公園のブランコに乗るなんて、青春ぽくていいわねぇ!」
「は?!」
お姉ちゃんは「きっとアザミは大好きだったブランコに乗ってるだろうと思ったわ!」と、ギーコギーコと本気でブランコを漕ぎ出した。
い、いつの話をしてるの?!
そんなの幼稚園児とか小学生とかの話じゃない!