第5章 ◆◇短編*ミッドナイト夢 叶わぬ夢◇◆
「私がアザミから離れられない事を理解出来ない男は私を選ぶべきじゃない。そして私にとっても、アザミを差し置いて全てを捧げることができるような男ではなかった、という事よ。
それだけの事だったのよ」
お姉ちゃんは全くもって何でも無いように話すが、ちっとも何でもなくない話だった。
「やっぱり私が邪魔なんじゃん…っ」
「アザミより大事なモノがないのよ、私には」
違うよ、そうじゃない。
私だってお姉ちゃんが大切で、幸せになって欲しい。どうしてそれを分かってくれないの?
「またそうやって自分を蔑ろにする…!!」
「…アザミ?」
いつもなら「他にもっと良い男がいるよ」とか「元彼は見る目がなかったね」とか言っていた。しかし、私も年頃になってやっと理解した。自分がお姉ちゃんにとって厄介者でしかないことに。お姉ちゃんが私のために自分を犠牲にしていることに。
「……お姉ちゃんはさ、何でヒーローになったの?
私のせいでしょ…?
お父さんやお母さんもがいないから、お姉ちゃんがお金稼ぐしかなかったんでしょ…ッ?!」
「アザミっ、本当に違…」
「お姉ちゃんのバカ!知らないっ」
そう言い放ち、私は荒々しくガタッと席を立つ。玄関に掛けてあるコートをバッと取り、そのまま夜の屋外に飛び出した。
ギーコ ギーコ…
「………」
アザミは寒空の下、独りで公園のブランコに揺られていた。日中は明るくとても賑わっているからこそ、夜になると誰も居ない公園はただただ暗く、寂しさが募るばかりだ。
数ヶ月ぶりの自宅で夕飯だったのに。
お姉ちゃんの手料理を食べて、眠くなるまでお喋りをして、夜更かしするつもりだったのに。
「二人だけで過ごせるのは、今日だけだったのに…」
1番楽しみにしていたことを、自分でぶち壊してしまった。終いには家を飛び出すなんて、家出じみたことをして。これじゃあ本当に子どもではないか。子ども扱いされたって文句なんて言えやしない。
「早く、大人になりたい…」
大人になってお金稼いで、一人で生きていけるようになりたい。誰にも心配かけず、自由に好きなことをして生きたい。そしたら、お姉ちゃんだって……
「アザミ!やっぱりここに居たのね」