第5章 ◆◇短編*ミッドナイト夢 叶わぬ夢◇◆
「ん!これ、今日はまた一段と美味しいね!」
「んふふ。ひと手間かけてみたのよ〜」
あと、お姉ちゃんの手料理。
……忙しいお姉ちゃんが私のためだけに作ってくれることが、すごくすごく嬉しいから。
「…お姉ちゃん、いつでもお嫁に行けちゃうね」
「当たり前よ!」
「彼氏は?」
「別れた」
「ええ?!」
価値観の相違よ!私、最先端を行ってるから!と、言いながらお酒を飲むお姉ちゃん。
………嘘つき。
「違うでしょ、私がいるから別れたんでしょ」
「ブフォッ」
ゲホゲホと咳き込むお姉ちゃんに水が入ったコップを差し出す……動揺しすぎでしょ。
「そろそろ私も一人暮らししようかな!次の春で私も高2になるしね」
「何言ってるのよ。料理はしないし、家事は手伝うくらいしかしないのに一人暮らしだなんて…
…それに、まだまだ子どもよ」
「…」
“まだまだ子ども”
その言葉に少しムッとしてしまった。
確かに料理や家事は全部一人で出来るかって問われるとYESとは言えない。まだ“大人”とは言えないかもしれないが“まだまだ子ども”で全てが許されるような年齢ではないはずだ。
(…ズルい)
ヒーローの授業では「コスチュームを着れば立派なヒーロー」とか「選択に責任を」とか言うくせに。都合が悪い時ばかり「子ども」という言葉1つで片付ける。
いつになったら私をお姉ちゃんと同じ“一人の人間”として扱ってくれるんだろう。
「……今は寮に入ってるし。
生活面に置いて、お姉ちゃんが心配するような事は何もないよ?」
「こうやって、帰ってきた時にお姉ちゃんいないと困るでしょ?」
「困らないよ。もうある程度のことは一人でできるよ!
……だから、卒業したら。
ヒーローになって、お金稼いで、絶対に一人暮らしする。
寮生活になる前は下宿してた同級生もいるんだよ?……私だって、みんなと同じこと出来るよ」
「………………正直に、言うわ」
お姉ちゃんは飲んでいたお酒のグラスをコツンとテーブルに置いた。
「結婚を見据えて、今後の生活スタイルの事で別れたわ。私が今一番大切なのは間違いなくアザミなの」
「…やっぱり、私のせいじゃん」
違うわよ、話を聞いて?とお姉ちゃんはいかにも尤もらしい理由を話しだした。