第1章 《 》の幼馴染
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俺がアザミより背が低かった頃、よく頭を撫でられた。
『俺、デクはもちろん!もうアザミより足早ェから!』
『わ!ホントだ!かっちゃん凄いねぇ!!』
ポンポンと優しく撫でてくれるその手が嬉しくて、俺は得意気になった。
けど次第にちっとも悔しがらないアザミに、俺の方が悔しがるようになった。
『当時のお前より俺の方が優秀だァ!!ザマァ!!』
『かっちゃん、すごっ…!めっちゃ勉強頑張ってるんだね!!』
アザミはぽんっと俺の頭に手を添え『いつも頑張ってて偉いねぇ!』と撫でた。
煽ったつもりで言ったのに、褒められるなんて思わなくて拍子抜けした。
『……ッ、少しは悔しがれよ!!!
いつまでも弟分じゃねーかんなッ』
そう吐き捨てアザミの手をパシッと叩く。
(クッソ…っ)
アザミに撫でられる事が嫌じゃない。
俺はソレが1番嫌いだった。
*
ましてや今も同じ事を思ってるなんて。
その手が昔と変わらず優しくて、俺の努力を認めてくれているようで。心の奥底で安諸してしまう。
好きだという想いと同時に、ふつふつと悔しさも湧き上がる。
俺はいつまで経ってもアザミに追いつけねェ。
―――――しかし、アザミは雄英高校に入学してから俺より先に行く事を放棄した。
コイツはヒーロー科に進むべきだったのに。
コイツの個性なら、十分試験だって受かるはずだったのに。
(堂々と追い越せねェじゃねーか…ッ)
だから、俺はヒーローになれる価値を手放したアザミを許せねェ。
だからいつもイライラしてしまう。
「アザミ、テメェこそ……
ヒーローになるの、何やめとンだ」
俺の頭に触れていたアザミの手が一瞬ビクッと跳ね上がり、そして静かにそっと離れていく。
「……前にも言ったじゃん。実力がなかったんだよ」
「嘘言ってんじゃねェ」
「もー、嘘じゃないってば」
腹立つわ、その嘘に。
アザミの貼り付けた笑顔が痛々しくて、俺はフンッと鼻を鳴らし目を逸らした。