第1章 《 》の幼馴染
「なんかごめん…」
(なんかって何ンだよ)
アザミは俺の苛立ちや居心地の悪くなった雰囲気を感じ取り呟くように謝罪した。
「別に」
……ちげェ
ちげェーんだ。
腹が立つのは、本当はそんな理由じゃなくて。アザミがヒーローになれる価値を手放させてしまった事に、だ。
助けてやれなかった俺に苛ついてンだ。
俺が頼りない弟分だから。
(……だから、超えてやる)
お前が心から憧れていたあのヒーローはもちろん、オールマイトをも超えるヒーローになる。
それからだ。
このバカみてぇな恋心に決着をつけンのは。
ライバル心と共に芽生えた恋心。
いつまでも満たされない。
いつまでも追い越せない、追いつかないと錯覚させられる。
認めたくねぇが、ずっと昔から心のどっかで思ってた。多分、コイツの全てを超えても何1つ敵わねェーんじゃねえかって。
「…ンだよ」
アザミは俯向きながら少し震えた手で、遠慮がちに俺の制服の裾を掴んだ。
まるで俺が泣かしてるみてぇじゃねーか。
(本当に、泣いちゃいねーけどよォ…)
アザミ
お前、本当は泣き虫だもんな
「…ねぇ、やっぱり今日、一緒に帰ろ。
雄英高校入学のお祝い、しよ?」
泣き笑いのような、眉尻を下げた困ったような顔で俺を見上げるアザミ。
そんな顔をさせてぇんじゃねェーわ。
「…辛ェもん」
「え?」
「辛ェもんなら有りだ」
「……え、…えへへ、やったー!」
先程の憂いは何処へやら。
今はいつも通りのアザミに戻り、「私の新しいバイト先でね!四川麻婆が好評で!…」と、ひとり熱弁している。
「…あ!家庭家の教科書借りたいし、放課後は1-Aの教室まで迎えに行くよ!」
「ぜってェー来んじゃねェ!!!」
「しょーがないなぁ、校門で待ってるね!」
放課後、の前に。
昼休み後はオールマイトが担当の戦闘訓練の授業がある。
「ふふっ、楽しみだね」
アザミの笑顔を見て改めて決意する。
「そーかよ」
―――絶対ェ、超えてやる。