第4章 体育祭、それぞれの準備
* * *
『常にトップを狙う者とそうでない者…
その僅かな気持ちの差は、社会に出てから大きく響くぞ』
オールマイトに言われた台詞が、僕の胸に突き刺さる。
雄英高校の屋上にて。
体育祭に向け早朝トレーニングを行っていたら、ビルとビルの間を猛スピードで駈け抜けていく…赤色と青色のコスチューム。
「あぁ、オールマイトだ…!」
No.1ヒーローであるオールマイトがマントをはためかせながら高層ビルの屋上から屋上へ、ビルとビルの間をひとっ飛びで駆けていく。
朝日を浴びる彼はもちろん、彼のフォームを映すビルの窓ガラスですら美しい。
「“君が来た!って、知らしめてほしい”…か」
オールマイトの言葉を口にすると、その言葉の重みが僕のプレッシャーとなり降り注ぐ。
人生の中で自分の存在を主張したことなどあっただろうか。否、無い。
そもそもオールマイトが見てくれているのに。授かった個性…力をコントロールも出来ないのに。体育祭で自己アピールする意味なんて。
ナンセンスな思考だと分かっているのに、頭の中でぐるぐると回り続けている。
「にゃーん」
「ね……猫?」
こんな所に?
そう言えば、この猫……
「この間、轟くんに抱っこされてなかった?」
「にゃあん」
確かクラスの女子からもオヤツを貰っていたような。
僕も触れるかなと、猫にそっと手を伸ばす。しかし猫はフイッと向きを変え、屋上の出入り口…校内へ吸い込まれていった。
「行っちゃった……」
「あ、デクくんだ!」
「うわあ?!!
えっ、どうして…っ!!!?
アザミちゃん!!!?」
猫が立ち去った束の間、出入り口の扉からアザミちゃんが顔を覗かせていた。朝が弱いアザミちゃんが、何でここに居るんだろう…?!
「朝練!ここでしようかなって。
そしたらデクくんが居た!」
それに屋上、3年の校舎に近くって!と、アザミちゃんはふあ〜と大きな欠伸をしながら自分の校舎を指差す。あ、本当だ。意外と近いんだ。
(そういえば、アザミちゃんも体育祭出るって言ってな…)
ふと、アザミちゃんに聞いてみたくなった。
アザミちゃんは何のために、体育祭で頑張るの?