第4章 体育祭、それぞれの準備
「夕焼け!明日は晴れそうだねえ!」
だから何だよ
そんなもんいつも見えんだろーが
何の意味があるっていうんだよ
そう思うのに言葉にできず、只々彼女を見やる。
(……すげぇ、ムカムカする)
野次馬のように“エンデヴァーの息子”の俺にあれこれ聞いてくるわけではないが、土足で心内を踏み込まれているような。そんな感覚がした。
「呑気なもんだな」
「ん?」
「お前、辛いことがないのか?
だからそんな風にへらへら笑ってんのか?」
「…」
俺が見下すような、挑発するような言葉をぶつけても顔色一つ変えない。むしろ更にへらへらしやがった。……イカれてんのか。
「……辛いから、笑ってるの」
「―――は?」
「私を支えてくれる人がいる。
だから今、笑っていられるの」
笑顔をくれる人がいるのに、変な顔してたら心配かけちゃうしね!と、彼女は笑って答える。そして何事もなかったように、夕焼けに染まる校庭や街並みに視線を移した。
「キレイだねえ」
「―――っ嗚呼、そうだな…」
彼女の言葉に、夕焼けに染まる彼女の横顔に。
素直にそう思った。
夕焼け色は好きじゃない。
エンデヴァーを、クソ親父の炎を連想してしまうから。それでも綺麗だなって、初めて思えたその心を。蔑ろにしたくないと思った。
「なあ、お前―――――
名前、何て言うんだ?」
「私?
私は―――…………」
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あの日。
図書委員の仕事があった日。
夕焼け色に染まる彼女が、図書室の窓に手をかけ、ふわっと髪をなびかせる姿。
それはまるで絵画のような、映画のワンシーンのような。意味もねえのに、不思議なくらいに覚えてる。
よく晴れた今朝。
俺は雄英のジャージに袖を通し、体育祭に向けて身体のコンディションを整えるため河川敷に来ている。
「……スゥー」
この体育祭でクソ親父を見返し、完全否定する。
その為だけに生きてきた。
しかし、彼女と出会ってから言い表せない程僅かな心境の変化がある。
ただ一瞬、この一瞬。
何もかも忘れて、息ができるようなるだろうか。
どうでもいいと思える日が来るだろうか。
俺の頭上を漂っていた灰色の雲が流れていき、温かい陽の光が降り注いだ。
体育祭まで、あと3日。