第4章 体育祭、それぞれの準備
「嘘ついて、勝手なことしてごめんね?
お茶子ちゃんも、梅雨ちゃんも、皆そうやって知らないフリしてたからさ」
「は…?」
「あれ、知らなかった?
1-Aに来る轟くん目当ての生徒は皆がやんわりと断ってたんだよ」
知らなかった。
驚きすぎて開いた口が塞がらないとは。
こうゆうことを言うのか。
「……………お前………」
「ん?」
「お前、1-Aのクラスメートじゃねぇよな?」
「え、そこ?!
……と、いうか。私の事、全然わかんない?」
クラスで見かけたこともない?、と。
女はまじまじと俺を見る。
「そっか〜〜私の事知らないか〜〜」
「………悪ィ」
「まあ、知るわけないよね。
クラスの皆が、轟くんを庇ってたことも知らないもんね」
ぐうの音も出ねえ。
「轟くんのクラスにさ、幼馴染が居てね。
結構君のクラスに出入りしてるんだ」
だからクラスのみんなの名前知ってるよ〜!
切島くんに上鳴くんに、耳郎ちゃんに三奈ちゃんに!…と。
俺が知らないクラスメート達の名前も挙げていく彼女に面食らった。
「全然興味ないんだねえ」
「いや、そんなつもりじゃ」
「でもさ、君を大切にしてくれるクラスメートはいるんだから。轟くんも大切にしなくっちゃ!ね?」
(“大切”…)
大切とはなんだろう。
俺にとって大切なものなんて、あるだろうか。
(あえて言うならば…)
俺の個性、半冷半燃。
右から氷結、左から炎熱を繰り出す。
大切なのは、その右…氷結、だけだ。
炎の個性を持つ親父は。
オールマイトを超えさせるために氷結の個性を持つ母と結婚し、俺をつくった。
記憶の母はいつも泣いている。“おまえの左側が…父親を思わせる左側が、醜い”と、幼い俺に煮え湯を浴びせた。
俺の大切なモノは、クソ親父を見返すこと。
奴の個性を使わず1番になり、完全否定をすることだ。
それだけだ。
それだけだった、はず…………
「…………」
「どうしたの?」
「!、いや、何でもねぇ」
このモヤモヤは何だろう。
あと少しで思い出せそうで思い出せない、この気持ち悪さは。
「もう閉館時間だから、図書室の戸締まりして私達も帰ろう!ほら、見てっ」
「?」
図書室の窓を開け、外を指差し笑う彼女。
ふわっと気持ちの良い風が俺の頬を撫でた。